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何度も夜中に目覚めては、浅い眠りを繰り返している。大変長い時間を眠っていたような感覚とともに意識が浮上した。まぶたは重くまだ開きそうにない。もぞもぞと身じろぎした瞬間、なんとも心持たない感覚にナルトのまだ働いてくれない頭でも疑問符だけは浮かびあがった。
(オレってば裸で寝ちまったのかな……)
むき出しの足にさらさら擦れるシーツの感触がいつもの朝と違う予感をナルトに抱かせる。しかし下着はかろうじて身につけているらしく、キツくも感じるそれに今朝も元気に主張するナルトの息子様が窮屈だと責め立てた。腹の回りにまとわりつく布切れのわしゃわしゃとした感触も不快で、いっそのこと起きてしまおうかと目を開いた時、
「!」
ナルトの顔面に結構な勢いで何かが当たった。何の気構えもなく受ける衝撃は、寝起きの無防備さも手伝ってナルトの頭を一気にクリアにさせる。しかし、それより何より目の前に広がる光景にナルトはクリアを通りこして凍りついた。
(何でサスケが一緒に寝てんだってばよ……ッ)
今や木葉一の美丈夫ともてはやされるサスケがこちらに顔を向けて眠っていたのだ。その無駄に男前な顔を無防備にもナルトの目の前にさらしている。見慣れぬサスケの寝顔に一瞬見惚れそうになって、いやいや、そんな暇はないとナルトは無理やり向き合わねばならない現実へと目を向けた。
サスケに続きさらにナルトを驚かせたのは、自分に一撃をくらわせた相手。まるでサスケと自分の間が定位置であるかのようにすやすや眠る黒い髪をした赤ん坊の存在だった。
(どこん家の子だ……?)
もう何がなんだか分からない。二つの布団をくっつけているとはいえサスケと一緒に寝ているというのも心臓に悪ければ、あたかも二人の子供であるかのように何の警戒心もなく眠る赤ん坊にも驚きだった。
サスケと同じ黒い髪。こちらを向いて眠る大人と赤ん坊の組み合わせは、清々しい朝の気配の中とても心和む光景であるといえた。
(寝てるとサスケも可愛いかもしんねぇ……)
少し鼓動が早い。まだ先ほどの衝撃を引きずっているのかもしれなかった。
(それにこんなサスケあんま見たことねぇし)
サスケをサスケたらしめるのはあの眼光のきつさだ。少しつりあがり気味の切れ長の瞳も手伝って、普段の彼はとても近寄りがたい雰囲気をしている。それが任務中となればさらに鋭さが増し剣呑だ。だからこんなサスケはたいへん貴重であって、よっぽど気を許した者でないと見ることは難しい。それをナルトも知っているからこんな時であるというのにこの目はサスケから離れようとしない。
(って、和んでる場合じゃねぇか)
それよりもなぜこんな珍妙かつシュールな朝に遭遇しなければならないのか。ナルトは懸命に思いだそうとするのだが、最後に覚えている記憶とこの光景はまったくもって繋がらない。
(なんかの罰ゲームとか……)
いや、確か自分は任務中だったはず。どうやら任務を完遂し、無事戻ってきて今に至るらしいがその辺りの記憶がスパーンと綺麗に抜け落ちているようだ。
(それより、何でこーなってんだかサスケに聞かねぇと……)
持ち前の前向きさでこの非常に難解な状況確認をしなければとナルトが辺りを見渡した時、ついでのように視界に入ってきたそれに文字通り一瞬わが身を疑った。
(……!)
見下ろした己の常軌を逸した格好に思わず、
(ぎゃーーー!)
ナルトは思いきり心うちで叫んでいた。今眠っているサスケの前で、無様に叫ばなかった自分を全力で誉めてやりたい。慌てて口元に手を当て、気を抜けば奇声を発してしまいそうな己を押さえ込んだ。
(こ、こんな姿見られてたまるかってばよ………!)
なぜ足元がすーすーするのか、なぜ腹回りに服がまとわりついているのかようやくナルトは気付いたのだ。
通常であれば可愛らしいとも、現状況であればいかがわしいとも受け取れるキャミソールタイプの白いワンピースでナルトの身は飾られていた。
(ありえねーーーッ!)
このまま頭を抱えてゴロゴロと転げまわりたい衝動にかられながらも、ナルトはひとえにサスケにこんな情けない格好を見られたくない一身で耐え忍んだ。確かにサクラのような女の子であれば、この白いワンピースは可愛らしいに違いない。しかし男の自分が身につけるとなれば話は別だ。視覚的に痛い。どこから見ても痛すぎる。覚えてはいない。覚えてはいないがどうしてもコレを自分が正気でやったとは思えなかった。てか思いたくない!そんな変態決定とかありえねぇ!
とにかくこの場から離れよう、そうしよう。そうナルトは即決し、全神経を総動員して気配を消しながら布団から出ようと身じろいだ。その時、サスケの目がぱかりと開いてしまった。
「あ……」




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