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前置きもなく小さな肩をつかんで仰向けにさせると、大きな瞳が驚いたように見開きサスケを見上げてくる。本来の鮮やかさは暗い中では見れないものの、丸くなった蒼色の瞳は十分サスケを魅了するものだった。だからそれから目を離すことはせず、
「そうか?オレはあの時・・・」
 結構キタぞ、とようやく己の気持ちらしい言葉がでてきた。
「それ、どうゆう・・・」
「お前、今は?」
 そして知りたくなるのだ。それが相手にとって嬉しいことなのか、憂えるものなのか。拒絶されるよりは受け入れ認めてもらう方が良いに決まっている。でも自分たちは本当に何に対してもまだ未熟で、言葉の捕らえ方も気持ちの伝え方さえ思い通りにならない。ナルトもこんな風に歯痒いような気持ちでいたんだろうか。
ナルトの肩を掴んだ手はそのままで、身を乗り出すようにしてさらに近づいた。間近で見下ろす普段勝ち気な目をした少年の、今はどこか頼りなく揺れる色に新鮮さを覚える。暗い中でも光りを汲み取ろうと瞳孔が色を増すからかもしれない。意識に上がるほど鼓動が早く打ち付けだした。
「お前今、ドキドキしてんじゃねぇの?」
 サスケはついて出た言葉を確かめようと、仰向けになったナルトの無防備な胸元に手を押し当てた。あからさまに強張った彼の体に躊躇したが、自分と同じように布越しでも分かるほどに強く早い鼓動を手の平に感じとって、
「サスケっ」
 払いのけようと上げられたナルトの手をサスケは反対に掴んだ。
「だってオレも今、ドキドキしてる」
 そうつぶやくように言うと、その手を自分の胸へと押し付けた。そうする事でさらに煩わしいほど胸の高鳴りを感じる。
 その時、ナルトの唇がきゅっと噛まれた。何かを堪えるよな、その見慣れぬ仕種にサスケは思わずどきりとする。歯のあたる様はいつもより彼の唇をぽてりと見せ、サスケの胸をさらに騒がせた。言葉を発っしようと開かれた下唇に小さな歯型が残り、うっすら紅色に染まっているのを見つけて、
「・・・恥ずかし・・ぃ・・・」
 そうこぼされた言葉とともに、サスケはそこに口付けたい衝動にかられた。ふいと背けられた顔の輪郭から続く首筋さえその衝動をあおるようだ。
「サスケもすげぇドキドキいってる。緊張・・してる?」
「うつったんだよ。てめーのが」
 自分の胸に押し当てていたナルトの手を離し、そのままシーツに縫いとめた。ぎくりと体を強張らせたのが触れた場所から伝わる。しかしナルトからのあからさまな拒絶は感じないと、掴んだ腕と顔の横についた手に体重をのせた。
 居心地悪そうに身じろぎするナルトが、目線は合わせずに恥ずかしそうにつぶやく。
「あのさ。この体勢すげぇ・・・恥ずかしいんだけど」
 暗に自分から離れろと、におわすナルトの言葉にサスケは一切無視を決め込む。何故なら自分はもう期待を持ってしまった。次に望むものが明確となったからには、それを実行せずしてどうしろというのか。
 口付けたい唇はすぐそこにある。
 一度は触れた場所。しかし、今互いが持ち合わせた気持ちが、あの時とは全く違うものだとサスケに確信させる。



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