尊きは白き


百日紅にて候、
第一章外伝_中編



「それでこの有様か?」
「面目ござらん。まさかこのような小わっぱに一杯食わされるとは」
目の前で仕切に頭を下げる男を佐助はただじいと見ていた。
本来なら通されることも許されぬであろう大広間に落ち着いた、しかしどしりと深味のある声が響く。それが佐助に常にない緊張感をあたえ、慣れぬ押し迫る空気を真正面から浴びて自然背筋が伸びる心地がした。
いくら隣にいる白雲斎がこの城主と懇意にしていようが、佐助からしてみれば一国の領主。自分の仕出かした事の大きさを知ったのは、連れ出した赤子を取り上げられ、引きずられるようにしてここまで連れて来られた時だった。

薄紅の御包みに寝かされた赤子を腕に抱き、知らぬはずの七つもの櫓(やぐら)を持つ平城内を迷うことなく進んで、気がつけば横幅は己の身の丈以上はあるだろう大きな井戸の前にいた。御包みを抱く手に力を込め中をのぞけばひやりと冷たい空気が佐助の頬を過ぎてゆく。
光の入らないそこは見下ろせば真っ暗な闇がどんどん濃くなっていて、佐助には底を確認することは出来なかった。
その闇に一瞬魅せられたように身を乗り出す。目前に広がる深淵が迫ってくるような感覚に佐助はぶるりと身震いをした。
手に抱える包みを強く意識する。
何の苦労も知らない赤子。
これから飢えるということも知らずに育つのだろう。
腹が減ったと言えば季節に合わせた料理が運ばれ、寒いといえば火が焚かれる。
死ねと言えば死ぬ家臣を持ち、それらは守れと言われれば命を賭して身を投げ出し忠義を誓うんだろう。
難しいことは分からない。
佐助に分かることといえば、大きさは違えど同じ所に目があり鼻があり、手があり足がある佐助と何ら変わることのない人だということだけ。
そう、同じ人だ。それが何故こんなにも違うんだろう。
自分はこれから死ぬとも分かぬ道を歩まねばならなくなった。しかしこの赤子は生きることを望まれ守られるのだ。
何が違うの?
中身が違うの?
例えば血の色が違うとか、そうゆうこと?
この胸の奥でどくどくと動く心の臓がこの子には二つあったりするわけ?
だったら確認しなければ。
本当はこの井戸へと落としてしまおうかと思っていた。そうすればこのもやもやする胸の不快感がなくなるのだと、佐助はどこかで確信していた。
けれども違いを確認しなければ自分は納得出来そうにない。
父は戦地へと借り出されたまま戻って来なかった。母は病を患い自分を置いて逝ってしまった。そして自分はひとりになって、ここで生きてゆくことさえ出来なくなった。
不公平だ。許せない。許したくない。
だからここでこの胸を開き、中を見るくらいいいではないか。
きっと痛みを感じるのは一瞬のこと。もしかしたら痛みさえ感じることもないかもしれない。
この爪は全く役には立たないな。この歯では酷く痛みそうだ。もっと鋭くて硬いものがいい。
佐助はあたりに影を作る木々を見上げる。登りやすそうな木だ。佐助でも手折ることの出来そうな枝が調度良いところにあるのが見えた。
佐助は上を見上げたまま、抱えていた赤子をゆっくりと地面へと置く。そこから数歩離れた時、引き千切られるのではないかと思う程の強い力で腕を引かれ、佐助は地面へと引き倒されていた。
ここ上田城が城主、真田昌幸の嫡男である赤子を佐助はそれと知らず連れ出していたのだ。

「さすがはお主が目をかけたというだけはあるな、白雲斎よ」
己がとてつもない過ちを犯し、ここに連れて来られたのだと身を固くしていた佐助の前で続く、どこか自分を褒めてさえいるような口ぶりに佐助は戸惑う。
「たまたま、目に留まっただけにござる」
昌幸の言葉に満更ではないような調子で白雲斎は返し、長く伸してある髭を数度撫でた。
「佐助といったな?」
何を考えているのか分からぬ冷めた目が佐助にひたと合わせられる。その瞬間喉が絞られたようにきゅうと狭まり、佐助は昌幸の質問に頷くことしかできなかった。
「何故、俺の子を連れ去った?」
睨むでもなく見下すでもなく、昌幸が佐助にまた問いかける。
何故と言われ佐助は返答に困窮した。
最初は偶然見つけた自分より小さな人間に興味を持った。近づいてみれば今まで触ったこともないような美しい絹布でそれは寝かされていて、周りは赤子をあやす愛らしい玩具がいくつも転がっていた。さらに奥の部屋には祝いの品であろうか、遠目に見ても高級であると分かる品々がところ狭しと置かれていたのだ。
一瞬で憎らしいと思ったのかもしれない。
でもその時は、このどこぞの赤子がいなくなれば大人たちは慌てて探し回るだろうから、少し困らせてやれくらいの軽い気持ちであったのだ。
しかし、たどり着いた大井戸の中を覗き込んだ時。
闇と真正面から対峙した時。
怒涛のように恐怖が込み上げてきて、ずっと胸にあった不安が膨れ上がった。
本当は忍になんてなりたくない。しかし、自分には戻る場所はすでになかった。
だからこの赤子が憎くて仕方がなかった。そう、殺してやりたいと佐助は本気で思ってしまったのだ。それを昌幸に語ることが何を意味するのか分からない佐助ではないから、臆していたからだけでなく口を開くことができなかった。
「なーに、殺そうとしたんでしょうな。こやつはそうゆう目をしておる」
応えられずにいる佐助の代わりとばかりに白雲斎が割って入る。
その言葉に佐助の目の前に座していた昌幸の側仕えの男がギロリと睨みつけて来た。
「お主には聞いておらんだろう」
「そうでござるが、こやつは決して口を割りはしませんでしょうよ。聞くだけ時間の無駄にござる」
かかと笑う白雲斎を佐助は凝視の目で見上げた。白いものが混じる口髭が歪めた口に習って持ち上がる。
「と、お前の師は申しておるが、相違ないか?」
佐助の殺意の有無を問うているのか、それとも佐助の口の堅さを問うているのか判じかねるが、どちらにせよ頷くことは佐助にとって非でしかない。微々とも動かず俯いた佐助を昌幸はじっと伺う。
少しの沈黙が流れた。
「やはり強情であるようだな。お前にはもう家族はおらんと聞いた。何も持っておらん者を説き伏せるのは難しいものだ」
昌幸は脅迫が通じぬのであればと続ける。
「それ相応の吐かせ方はあるが、これから隠れ里へと連れて行かれる身とならば、ここで俺が手を出さずとも在りとあらゆる痛み苦しみは身を持って知るだろうよ。なら俺はあえてここでは手を出さず傍観の者であるとしよう」
笑いをも含んだ調子で昌幸はさらりと、今後の佐助の苦行を口にしてのけた。
「お手前様も人が悪うござる。それでは儂が佐助に拷問の苦しみを与えるかのような言い草ですぞ」
「遠からずであろう?」
唇の片方を吊り上げ、昌幸はちらと佐助を見る。
そこに含まれるどこか楽し気な口調が佐助の今後を示唆しているようで気味が悪くあったが、お咎め無しでこの謁見も終わったのだと佐助が肩の力を抜いた時、さて、と昌幸が控えていた己の部下に厳しい目を向けた。
「俺の息子がこの城内、しかも本丸で拉致された。この失態、誰が責を取るかだが……」
昌幸はゆるりと首を巡らせる。
「言わずとも覚悟しておろう。若子の側仕えの者全員、本日を持って任を解く。役立たずはこの城にはいらん。即刻この城から消えるよう申し伝えておけ」
「御意にござる」
たんたんと下される命に、少しの不満も見せる事無く頭を下げてみせた男にぎょっとしたのは佐助の方だった。いかな佐助でも、働き口がなければ食っていけないことくらいは分かる。城を出て行けという事の重大さに息を呑んだ。
佐助の心中などお構いなしに、さらに昌幸は若子を直前まで見ていた侍女に禁錮刑を言い渡す。
「ちょっと……待って……」
それを聞いて佐助は愕然とした。城主の息子が拉致されたとあればそれは当然の罰であったのかもしれないが、当人からすればちょっとした悪戯の延長であったのだ。その中にどのような感情が含まれていたのかはどうあれ結果として若子は無事戻ったではないかという思いが強い。
「ん?どうした。顔色が悪いな。お主には罪を問わんと言ったであろう」
気遣う言葉を吐きながらもその皮肉な表情に並々ならぬものを感じて、佐助はびくと体を震わせた。
「お主に他意はなかった。ただ物珍しゅうて連れ出しただけなのであろう?そう申したな?」
じっと顔を俯けて黙然を通す佐助に昌幸は淡々と言葉をあびせる。
「ならば、童の気紛れ一つ御しきれん奴らに若子の今後を任せられるか。のう白雲斎。俺の言うことは間違っておるか?」
「お手前様の仰せのとおりにござりますな」
何の感慨もなく白雲際も昌幸に同意の微笑をみせる。
「なんだ不服そうだな、佐助」
ここにきて何の応答もない佐助に、昌幸はさも腑に落ちないという体で首をかたげてみせた。
「ではこの場合誰に責があるであろう?お主でないとすると、若子の守役ではないか?それも違うとなればお主をここへ連れて来た白雲斎か。ならば白雲は俺の家臣ではないからな。それ相応の罰を受けてもらわねばならん。なに命は取りはせん。腕の一本、目のひとつ貰うまで。それとも鼻を削いでしまおうか」
昌幸は薄ら笑って白雲斎へと目を向けた。
「お手前様、鼻はひとつきりにござる。腕か目にしてもらいたい」
それを聞いた白雲斎は大仰に眉を寄せると昌幸の言葉を引きついだ。
「俺とそちの仲。それくらいは考慮しよう」
「ありがたく」
「では佐助。これでよかろう?」
「じい様も悪くない……」
佐助はようやくそれだけを口にした。
「ほう、では誰が罰を受けるべきと思うのだ?」
やはり顔を俯けたまましばらく黙然と目蓋を閉じていた佐助であったが、苦々しい調子で重い口を開いた。
「若子様が…悪いと思う。他は悪くない」
「お主は面白い事を言う。俺の息子に責があると申すか」
さも奇怪なことを聞いたとばかりに昌幸が笑う。
「簡単に……さらわれる若子様が悪い」
「無茶を言うものよ。生まれて間もない若子の弱さを責めるとは」
「泣けば佐助もつれてはいかんかった」
ふむ、と昌幸が小さく頷いた。
「なるほど、赤子は泣くのが仕事。それを怠ったと言う訳か。お主を罰する事はせんと言った言葉を撤回するは、武士の名折れ。なれば俺は自分の息子を罰っせねばならぬか。だが俺も人の子、初めての子は可愛いものだ。見過ごす訳にはいかん。のう佐助、若子に時間をくれんか。せめてお主と同じ年頃になるまで。その頃にはお主も修行をし知恵も力もついておるだろう。その時再度問わせてもらう。誰に非があるのかを。やはり若子に非有りきと思わば学んだ忍術でお主の好きにするがいい。しかしお主が非を認めたとあらば…………」



その後の昌幸の言葉を佐助が記憶に残していなかったのも、何度問われても自分が咎を認める訳などないと確信していたからに相違ない。それは故郷の地を離れ、死んだ方がマシだと思う修行と言う名の苦行を何度となく課せられる度に強くなった。
敵国を周りに囲まれたたかだか小国大名などの言いなりに佐助はなるつもりはない。見逃してもらったという後味の悪さはいささか残っていたが、それよりも嘲笑うようにして自分をここへと送り出した男とその息子に対する負の感情が無意識にも佐助を奮い立たせ続けていた。いつか隣国の国々から侵略され破滅の一途をたどるであろう真田の末路を見届けてやるのだと。
五つの歳で甲賀の地を踏み、白雲斎を師と仰ぎ修行をした。着る物、身に付けるもの全て定められ、口にする物は当然の事ながら、睡眠の場所から時も決められた。厳しい冬は泥を塗り付け寒さを凌ぎ、あらゆる稀物を毒と承知で口にする。課された仕事が出来ねば食事はおろか眠る事も許されず、寒さに震えた夜は数え切れない。
八つの頃には百を越える武器を扱い、一日で四十里を駆けた。九つを越える頃には人を切り貫き砕くことにも慣れ、赤は常に身近にあった。色とは人に強く印象を残す。それを佐助は嫌った。だから無意識に色を否定する。佐助の視界から色の認識がなくなったのはいつの頃からだろう。
しかし、それも忍である自分からしてみれば別段意味のあることではなかった。己は言われたとおり迅速に手落ちなく任務を遂行できればそれで良い。ただの人型をした道具であれば良かった。それが己を守った。それで守ってこれた。
人とはすぐ死ぬことを知った。しかし人とは案外しぶといことも知った。
肉を切る感触、体を貫く加減、骨を砕く音。そんなものが日常。
佐助が過ごしたのはそんな日々だ。綺麗なものなんてなくて、美しいものはすぐに壊れた。
それでいいのだという。感情といった色は切り取られ、それに比例して己が存在が薄くなっていく感覚。
それが忍びあり、それが影であるのだと。
人が一生の記憶に残すであろう出来事も、佐助の中にとどまりはしない。
しかし、あの上田最後の日だけは忘れることは出来なかった。
それは真田昌幸という男が佐助が見てきた中の誰よりも底知れぬ人物だと思ったからか。それとも佐助が初めて殺意を覚えた日であったからか。もしかしたら佐助が人であったのだと自覚していた最後の日だったからかもしれない。
十の歳に上田へ行けと言われた時、まだあの約が離反にはなっていなかったという事に少なからず佐助は驚愕した。であるならば、あの知謀策謀にまみれた男の嫡男がどのように育っているのか見てやろうと。さぞやあの男に似た利発なクソ餓鬼に育っている事だろうと佐助は皮肉る訳でもなく当然と思った。あの時の非を自分は認める気など毛頭無い。気に食わなければ殺せばいいだけの話。勿論それとしれずに暗躍をもっとうとする忍らしく。
そんな思惑を胸に上田城へと入城し、二度目の対面は地面に膝を付いた佐助を濡縁に立った昌幸が出迎えるという形で果たされた。
「上田が真田昌幸公とお見受け致す。猿飛佐助、急ぎ忍び参りました次第」
「来たか佐助」
その声は五年前と寸分違わずあの頃のまま低く深く、佐助の知る誰よりも蠱惑的な響きを持っていてやはり好きではないなと思う。
「お主を呼びつけたのは他でも無い。あの時の精算をしようと思うてな」
やはり、と佐助が眉を潜めた時、面を伏せる佐助の耳に入ったのはばたばたとけたたましく廊下を走る音。
軽い音。小さな童だと分かる軽快な、しかし覚束ない足音。それが真っ直ぐこちらへと向かってくる。
ちらりと昌幸の顔を見上げれば釣り上げられた唇が、何とも嫌な予感を佐助に与えた。
角を曲がり転がり込むようにして姿を現したのは、小さな赤い塊。片手を廊下に付き転倒を防いだものの、勢いはそのままに走り込んで来た妾は色も鮮やかな赤い単衣を纏っていた。
肩口で切り揃えられた髪がぱらぱらと揺れ、一瞬童女かと思った佐助であったが、真田の男子は幼少の砌は女児の格好をさせるとあったことを思い出し、この目の前の愛らしい妾があの時の若子なのだと思い当たる。
はぁはぁと肩で息を吐き頬を紅潮させた若子は、大きなどんぐり眼をめいっぱい広げ佐助を凝視した。眼同様、徐々に大きく口が開かれていく。
「おおおおおおおおおぉ!!そなたがさすけか!?」
どこから声を出しているのかと目を瞠る程に大きな声が辺りに響き渡った。
興奮した面持ちで若子は身軽に縁側を飛び降りると、裸足のまま佐助の方へと駆けてくる。
制止の声はかからない。
砂利が擦れ、飛び散る音が大きくなる。
両手を広げ、抱きつかんばかりの気配をばら撒いて。
止まった拍子に柔らかそうな髪が前後へ揺れた。
見上げる自分を真っ直ぐ見つめてくる眸に、蔑む色は微塵もありはしない。
それは無防備に。
不思議なほど当然とその姿は佐助の前に在った。
薄手の籠手には苦無が仕込んである。
腰に下げた忍具の中にはそれこそ手裏剣から千本、様々な暗器が入っていた。
知らぬはずがない。
自分たちを上から見下ろす昌幸がそれを知らぬはずがなかった。
やはり制止の声はかからない。
「はなしは父上からきいておるぞ!さすけはずっとそれがしのためにきびしい修行をしておったのだと!よう戻ってまいった!!」
高い声。反発したくなる。
いつもの雑音だ。こんなもの。
おまえなんかの為に生き抜いてきたんじゃない。
死なない為に殺してきた。
おまえには想像もつかないだろう。
いつか嘲笑ってやろうと思いながら生きてきたなんて。
「さすけは話せんのか?」
うるさい声。耳障りな声。心配そうな声。
輝く眸が一瞬曇るのが見えた。
しかし、
「ああ!忍はかんじょうをころさねばならんのだとも聞いた」
またその双眸は光を増して。
「ならばこれからはそれがしと一緒にそだててゆけばよいな!」
眩しさに目を背けたくなった。
でも意識は引き寄せられる。
何故こんなにもこの声は、刃のようにこの胸の深いところまで突き刺さって。

『これからはそれがしとずっと一緒だ』

こんなありふれた言葉ひとつで。
そんな閃く眼差しひとつで。
流れ出す血が、自分も紅くて熱いことを実感させられるだなんて。
目の前に差し出された幼い手。
簡単に振り払ってしまえる小さな手。
でも震えていたのはこの両の手。
泣きたいのかもしれなかった。
言葉にすればそんな感情。
とっくにそんな感覚は忘れてしまっていたけれど。
「さすけ?」
慣れた呼び方。もうずっと前からそう呼んでいたみたいに。
ああ、そうかと思う。
呼んでいたのだ。
これは昌幸の策だ。
何を目的としているのかなんて知る由も無い。
しかし、今こうやって自分を見る期待に満ちた目はあまりに澄んでいて。
そこにほんの少しでも偽作が混じろうものなら、自分は一瞬でも迷うことはなかった。
昌幸の完璧なる傑作。
若子の純粋なる魂。
昌幸は用意したのだ。
彼からしてみれば最も難しいと思われる方法を選び、仕込んでいた。
まったく思わぬ方向から受ける衝撃。
見る間でもない。男はやはり酷薄そうに笑っているに違いない。
分かっていながらもあらがい難い術をかけられてしまったように、佐助の腕がゆっくりと上げられた。
求めていたものが目の前に用意された。
ここがお前の場所だと示唆する存在が。
指先が触れる。その瞬間、ぐっと握りこまれた。
そして、
「よろしくたのむぞ、さすけ」
若子の目がみるみる細まり、紅い頬が林檎のように丸みをおびた時、

佐助は始めて色が見えた気がした。










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