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青峰君の本音








Middle Of  Nowhere 9








常に冷静であれと
感情をあらわすなと意識してきた。

でも
そんなもの何の役にもたたないこともあるんだと
君と向き合うたび思い知らされる。

まるで親の敵にでも会ったかのような視線を向けていた君が今は
迷子の子供のような顔をしてボクを見つめる。

ねえ、いつから君はこんな寒いところで
ボクを待っていたの?

そんな些細なことひとつでボクの心は千々に乱れる。
胸があつい。苦しい、イヤだ。
精一杯我慢しても
押さえつけてみても
嬉しさがこみ上げてきて、

「…どうして青峰君がそんな顔をしてるんですか?泣きたいのはボクの方です」

悔しい気持ちがあふれる。
さっきまでボクはもう君とは関わりたくないとさえ思っていたんだ。
手繰り寄せては冷たく突き放す君に振り回されたくなんてないんだと。

何も言い返してこない君。
けれどもそんな顔をされてしまうと
傷つくと分かっていても

君に手をのばしてしまうボクがいる。

「家、入りませんか?暖かい飲み物くらいは用意するんで」

いつもより幾分硬い声。
それだけ言ってボクは青峰君の横を通り過ぎた。












ボクの部屋のドアが閉まる音が小さく聞こえる。
青峰君には先に部屋に行っててもらい、ホットのカフェオレを二つ用意した。

部屋に入るとベッドを背もたれに座る青峰君がボクを迎える。

「どうぞ」

熱いカップをそのまま渡すのもどうかと思いそのまま床に置いた。
ボクは少し距離をおいて青峰君の隣に腰をおろし、ひとくちカフェオレを口にする。
気まずい沈黙が流れた。

「…青峰君、冷めてしまいますよ」
「……」

じっと部屋の隅を見つめたまま、カップを取ろうともしない青峰君に声をかける。
それでも彼は目線を少し下に向けただけだった。

「君は何をしに来たんですか?ボクに何か話があって来たんじゃないですか?」

ボクはカップを床に置き青峰君を伺いながらゆっくり身を起こした。

「…考えがまとまんねーんだよ」
「ボクのことですか?」
「他に何があるってんだよ」
「何を、考えることがあるんですか?」

青峰君は眉間を寄せると視線をこちらへ向けた。

「さっき、さつきに告白されたのか?」
「はい」
「で、テツは何て?」
「それは言えません」

ボクがそう答えた瞬間、青峰君の眉間がさらに寄せられむっとした表情になる。

「ボクの口からは言えません。確認したいなら桃井さんに聞いて下さい」

そんなことを聞きたくて彼はここに来たんだろうか。

「!」

青峰君はポケットから携帯を取り出すと、ボクが止める間もなく誰かに電話をかけ始めた。

「…あ、オレ………あ?んなのどこでもいーだろ。それよりお前テツに振られたの?」

通話の相手がその会話ともれ聞こえる怒鳴り声から桃井さんだと分かる。
あまりの音量に顔をしかめた青峰君が携帯から耳を離した。

「だからそれは悪かったって!………ああ…分かってるっつーの、ああ……それで結局どーなんだよ」

最後に桃井さんの大音量の声がもれ聞こえて通話は強制終了したようだった。

「んだよ、さつきのヤツ…」
「青峰君、右と左どっちがいいですか?」

ブツブツと文句を言いながら携帯を仕舞う青峰君にボクは尋ねる。

「は?」
「殴られるならどっちがいいのか聞いたんです」

膝立ちになったボクを見上げながら青峰君が焦ったように言い返した。

「ッちょ…待てよ!テツがさつきに聞けっつったんだろ!」
「君は人に言われたら言われたとおりにしか出来ないバカですか?」
「仕方ねーだろ、気になったんだよ!」
「やり方が悪すぎる」

怒りのまま振り上げたていた腕を青峰君が掴む。

「離して下さい」
「離したら殴るだろーが…!」
「当たり前です」
「大人しく殴られてやるかよ!」

そう言うと青峰君はもう片方の腕も掴んできた。
そうはさせるかと逃げるボクにさらに追い討ちをかける青峰君の体を
ボクが支えられるワケもなく

ドターンという音がしたと思ったら、ボクの背は床についていて
青峰君が馬乗りにボクの腹の上に跨っていた。

「……退いて下さい」
「退いたら殴るんだろ」
「…とりあえずは殴りません。だから退いて下さい」

冗談じゃない。ボクは青峰君がまだ好きなんだ。
この体勢は嫌過ぎる。

「青峰君、はやく…」
「なぁ、なんでテツ顔赤くなってんの?」

この人は…!

「そんな…分かってて聞くなんて性格悪いですよ」
「分かんねーから聞いてんだけど」

青峰君はゆっくりかがんでくると、ボクの顔の横に両手をついた。
見上げる先には何の表情も浮かべていない青峰君の顔があって
ボクは咄嗟に顔を背ける。

「まだオレのこと好き?」
「……」

どんどん顔に熱が集まってくるのが分かる。
いつもと違う甘さを含んだ声がボクの耳をくすぐる。

「こんななって顔赤くしてんのも、さつき振ったのも
まだオレのことが好きだから?」

本当にやめて欲しい。
気持ちが悪くなるくらい心臓が忙しなく動いてる。
今胸に手を当てられたりしたらその言葉を肯定してしまうのと同じだ。

そう思ったとき、

「すっげドキドキしてる。テツの心臓」

青峰君がボクの胸の上に手を置いた。

「なぁ、何で?」
「じゃあ、青峰君も答えて下さい」
「何をだよ」

ボクは背けていた顔を青峰君へと向けて言った。

「桃井さんがボクに振られたと聞いて青峰君はどう思いましたか?」
「残念だって思ったぜ?」
「どうして…そう思うんですか?」
「前も言っただろ。好きなもんが揃ってる方が気分いい」

同じ答え。
苦悶に顔が歪みそうになるのを押さえつけて続ける。

「その好きな桃井さんと青峰君自身が付き合おうとは…思わないんですか?」
「だからさつきのは裏切る方のだって言っただろ。現に今日テツに告ってたし」
「裏切らなかったらいいんですか?」
「テツはもう裏切ってっからもっとねーよ」
「青峰君……」
「付き合うとかそうゆうのんは裏切っても裏切られても平気なヤツじゃねーと無理」
「……」
「だからオレはー、テツはぜってーありえねーって思うわけ。
でも、テツがオレ以外のヤツを本気で好きになんのも我慢なんねーんだ」

吐息がもれそうになるのを辛うじて飲み込んだ。
力の入っていた体から力が抜ける。

「んなことばっか考えってっと頭おかしくなりそー」

青峰君がボクの肩に頭をのせる。

なんて我儘で勝手な人なんだろう。
そう思うのにこんな風に傷心を見せられると
拒絶されると分かっていてまたボクはその言葉を君に伝えたくなる。

「青峰君、ボクは……」
「オレさー、いつからかは忘れたけど」

ボクの言葉をさえぎって青峰君がくぐもった声で言った。

「昔からいつかアメリカ行くって決めてた」

初めて聞く青峰君の本音。
きっと彼は周りと自分との差を意識し出した頃から、
そんな風に考えるようになったのかもしれない。

「そしたら、付き合う女ってどーすればいんだろってなんだよ。
結局別れることになんだったらテキトーな相手のがいいって。
もし付いて来るって言われてもあっちでどうなるか分かんねーし責任とか取れねーし。
でも連れてくんだったらそいつの人生全部もらっちまうくらいの気持ちなんだよ」

落ち着きを取り戻していた鼓動がまた早鐘を打ち出す。
ゆっくりと上体を起こした青峰君がそこでふぅと深く息を吐いた。
ボクの胸を軽く手で押さえたまま続ける。

「例えばだけど、そいつの夢とか今一緒にいる家族とかダチとか全部捨てさせねーとなんねーの」

切れ長の目がひたとボクを見据えた。

「そうゆう覚悟がねーと無理。本気で好きなヤツと付き合って、でも一緒に行かねーとか言われてもそんなのオレ聞けねーよ。無理矢理でも連れてくし」

青峰君の本音にボクは言葉を失った。

「だからまだテツがオレのこと好きだってんなら、オレはそうゆう好きしかいらねーんだよ」
「……ボクは君のことを…少し、誤解してたのかも…しれません」

今のボクにそれ以上の言葉を言うことは出来なかった。
青峰君が好きだ。
その気持ちはずっとある。
でも、その気持ちの大きさをボクはあまり考えたことがなかった。
だってボクの気持ちのほとんどが君への羨望だったから。
君との未来よりもボクには過去での君との思い出が鮮明すぎて
大事すぎてそれ以上を考えたことがなかったんだ。

今ボクに家族を捨て友人を捨てまだ漠然とした夢を捨てることが出来るかと聞かれたら
頷くことは出来ない。
全てを捨て着いて行くという選択をボクは想定したことがない。
あるワケがなかった。
だっていくら青峰君を好きだと言ってもボクは男だからだ。
全ての選択を誰かに委ねるなんてことを思いつくはずがない。

「別に、今さらだろ」

ボクの上から退いた青峰君が手を差し出してくる。
握り返した手を引かれて体を起こした。

「さてと、そろそろ帰るわ」

そう言って部屋を出る青峰君の後を追う。

「明日もまた練習すんだろ?」

玄関先で靴を履きながらボクの方を見ずに青峰君が言った。

「え?あ…はい」
「気が向いたら見てやるよ」

いつもの気だるげな様子でそう答える青峰君にボクは軽く頭を下げる。

「ありがとうございます」
「じゃあな」
「気をつけて」

ボクに背を見せ手だけを軽くあげて青峰君は帰って行った。

ボクはそのままそこを動くことが出来ず
母さんがボクを呼ぶ声がするまでずっと立ち尽くしていた。







ボクはもしかして



とてつもない告白を



青峰君からされたのかもしれなかった











これから意識していくふたり






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