ボツオフ漫画本のネームを小説化。
ほぼプロット。今までと書き方違います。しかも一人称。
それでもOKの方のみどうぞ。























とはどんなものかしら?






あの日は本格的に暑さが厳しくなり始めた頃で、

なのにオレは全身に冷水をかけられたみたいに、体温を失って

ただ幼い顔付きでこちらを見つめてくる彼だった人に、

精一杯の作り笑顔を見せることしか出来なかった。
















「そこで見てるんだったら修行つけてよ、ナルト」
気になって外れちゃったじゃん。

わずかに中心からずれた手裏剣を確認して、
ずっと後ろの縁側でこっちを見ていたナルトへとオレは不満の声をあげた。

「こんぐらいで気を散らしてどーすんだってばよ」
「気配に気付いただけでも褒めてよ。
ナルトはいっつも気配消して近付くから油断なんない」
「確かに成長はしたかもな」
よいしょっと

忍らしからぬ声ひとつ落として、
ナルトが庭におりて来る。
片手に持っていたタオルをオレの頭にかぶせた。

「今日は何すんの?」
「悪ぃけどこれから任務」
「えー」

わざとらしく眉間にシワを作ると、
ちょっと困った風にナルトは笑って

「また今度な」
ごめんって言いながら汗をぬぐってくれた。

「今度っていつ?」
「え?」
「だから今度っていつ?
てか今から任務っていつ帰ってくんの?」

陽が暮れるにはまだ早いけど、
昼食を食べてからは随分経っている。
それは一日で終わらない任務ってことだ。

「えーと、今回の任務はぁ………」

何でそこで考え込むんだよ?
そこ大事だろ。

「何、知らないの?そんなややこしい任務?里外?国外?」
「そんなややこしくはなかったハズの国外」
「じゃあ一週間くらい?」

ナルトは長期任務を避けるから、長くても10日。
何もなければ一週間が妥当なところ。

「うーん、一週間…かかるかなぁ。うん、多分そんくらい」
「……オレが聞かなかったらアンタ一週間も帰って来ないつもりだったのかよ。
しかも無断」
「いや、別にそーゆーわけじゃ…」
「じゃあ何」

任務表に日程なんて書いてないのは当たり前だけど、
受ける時にだいたいの規模や難易度、
進行順序で分かるだろうに。
話し聞いてないのがモロ分かりだ。

へへっと笑って誤魔化そうとするナルトを軽く睨みつける。

「それでもあんたオレの家族?」

軽く開いた蒼い瞳がすぐに細くなって、
彼が笑みを作ったのが分かった。



初めて会った時そう言ったのはナルトだ。
あの時オレは凄く混乱してて、
はっきり言ってオレの前に立ったナルトの表情だとか言葉だとか、
あんまり覚えてなかったんだけど、
最後に家族になろうって言ったのはナルトだった。

これからはずっと一緒。

そう言って混乱の中でもはっきりあった、
悲しさとか辛さとか色んな痛いような感情で震えることしか出来なかったオレを
抱きしめてくれたのもナルト。

父さんも母さんも、大好きだった兄さんも死んでしまったんだと聞かされた。
親戚のおじさん、おばさん、従兄弟達に近所のおばちゃんにおじちゃん、幼馴染。

皆、死んだんだって。

しかもそれは何年も前の話しで、
オレは今年で17歳だって言う。

何馬鹿なこと言ってんの?って思った。

だって、オレはまだアカデミーに入学したばっかだ。
起きたら学校行ってオレにとっては簡単でつまんない勉強して、
帰ったら修行してたまに本当にたまにだけど兄さんに修行をつけてもらって、
ってそんな日常の中にいた。

なのに周りの大人は、
それは過去のことで今は違うんだって言う。

それに頷けばオレは一人だ。

美人だって評判だった優しい母さんのいってらっしゃいって言葉も、
さすがオレの息子だって撫でてくれた大きな手も、
軽いオレを背負う暖かな兄さんの体温も全部失ったんだって認めることになる。

残ったのはやけに大きく感じるこの体だけで。

嫌だ。会わせて。

父さんと母さんに会わせてよ。

兄さんに会わせて。

信じられない。

嫌だ。嘘だ。

信じたくない。無理だ。

どうして?誰が?

何の為に?

酷い。殺すなんて。

ねぇ、誰が殺したの?

マダラ?知らないそんなヤツ。

そいつももう死んだって?

オレが仇を取ったって?

嘘だ。そんなの知らない。

じゃあこの気持ちはどうしたらいいの?

家族を失って、皆いなくなって。

でもぶつける相手ももういないとか。

何の為に生きていけばいいの。

返して。

全部、返せよ。


みんなをかえして。


混乱して独り言のように呟くオレを落ち着かせようと、
納得させようと話しかけてくる大人達の中、
ベッドに座って震えるオレの手を何時の間にか側にいたナルトがひったくるように握って、


『一人にはしないから』

『これからはオレがサスケの家族になるから』


そう言って抱きしめてくれた。


もう一年も前の話だ。
彼はその時そう宣言した通りオレの手を引き、
導き、ずっと側にいてくれた。
家族を、親しい人たちを失った辛さを乗り越えられたのも彼のお陰。
今、オレに家族だと言える人はナルトしかいない。

だから、



「ちゃんと家族ですってば。ごめんなさい。
今度から気を付けるってばよ」
「別にいいけど」

オレの態度が釈然としないものになるのも仕方がない。
そう強く思ってるのはオレだけなのかなって、
ナルトはもうそう言ったことさえ忘れてしまってるんじゃないのって。
そんな風に思えてしまって、
彼との温度差に距離を感じてしまう。

「もしかして、サスケ」
「……何だよ」
「寂しい、とか思ってる?」
オレいなくて

ぐっと息がつまった。

「いつもそんな事聞いたことないサスケが、
いつ帰ってくるのとか」
「別に、たまたまだろ」
「そう?」
「そう」
「本当?」
「うっさいなぁ」

顔に熱が集まりそうでオレは乱暴にタオルで汗を拭うフリをした。
オレより少し低い位置でふっと笑う気配がして面白くない。
でもどうしてもやっぱり大事なことだから、

「本当に一週間で帰ってくるんだよな?」
って念押しみたいに聞いたら。

「ちゃんと帰って来るよ」
遅れてたらシズネねぇちゃんに聞いて。
定期報告は絶対するからって、
オレの好きな笑顔で言ってくれた。

また当分一人だけど、

「だからサスケの修行に付き合うのは帰って来てからな」

ああ、好きだなって思う。
凄く大事なんだって。

ちゃんとオレの言葉を聞いてくれて、
オレの気持ちを知ろうとしてくれる。
こんな人、
ずっと一緒にいて好きにならないワケない。

だって強い人なんだ。

誰よりも強くて、
誰よりも真っ直ぐで。

例えナルトの本当の気持ちがここじゃない遠い所にあったとしても、
オレにとって彼が大事で必要であることには変わりない。
だからサスケはいつも待っている。
ただいまを聞くために。
おかえりを言うために。
出来るならこの家以外でも接点が欲しいから、
目一杯修行して早くその揃いの額当てが欲しいと思う。

「じゃ、行って来るってばよ」
「うん、いってらっしゃい」
「戸締りはしっかりしとけよ」
「オレのこと何歳だと思ってんだよ」

呆れたように言えば、
特に考えた風もなくナルトが言う。

「さぁ、10歳は超えてる?」
「馬鹿にしてんの?」

そりゃ、あの時は7歳くらいまでの記憶しかなかったけど、
精神年齢は通常に過ごした年数の数倍は成長しているハズだ。
もともとが17歳だったということも加え努力は嫌いじゃない。

「嘘だってばよ。任務以外は勝てる気しねぇもん」
「当然」
「だから帰ってきたらご馳走楽しみにしてるってばよ。
サスケの作る飯は超美味い!」

つい餌付けしたくなるようなことをナルトが口にする。

「もういいから早く行けよ」
「はーい」

にししと笑いながらナルトが背を見せた。

その背に、

早く帰って来てよ

と心の中だけで呟く。
いつものことだ。
それをナルトは知らないだけ。

寂しいだなんて当たり前。
ナルトのいない一週間を思うと気が重くなる。

本当はずっと側にいたい。
少しだって離れてたくない。

自分を選んでくれた彼の為に、
自分の全てで持って応えたい。
この強過ぎる感情がどこから来たのか、
いつからあったのかなんて知らない。
ただこの想いがとても深くナルトにだけしか向いてなくて、
それは家族や親しい人をいっぺんに失ってしまった心の弱さからきたものかもしれないし、
ただそうなるべくしてあっただけなのかもしれない。
明確な答えなんてない。

でも考えることなく好きだと思う。

正常に時を刻むはずの心臓が幾度となく壊れそうになった。

別に壊れたっていいよ。

ナルトが側にいてくれるんだったら別にいい。



いつか壊れてしまってもいいから、



ねぇ、お願い。




ずっとオレの側にいて下さい。











恋とはどんなものかしら?_2→
←戻る