サスケぷちパニック







とはどんなものかしら?2






少し動いただけで汗が吹き出すような暑い日。
こんな日に任務だなんてと思わないでもないけど、
今から向かう国は火の国よりもよっぽど涼しくて過ごしやすいようで、
走り続けて明日にでもなれば肌寒いくらいにはなってるだろう。
横を涼しげな顔で走るのはカカシ先生。
その近くにはサイと彼の術で召喚した鳥のような動物の背にのった化学者のおっちゃん。
今回の任務は氷で封印されているある文明機器の発掘。
今までどうやっても解けなかった封印術だったらしい。
何故、その任務がオレたちに回って来たかというと。

「なぁ、カカシ先生。封印されてるってゆう機械って何なの?」

今更な質問だったかな。
案の定カカシ先生が胡乱な目をさらに胡乱にさせて、
ため息をついた。

「その確認をしに行くんでしょ。分かってたらオレ達の出番はなし」
「本当にそれだけ?」
「まぁ、持って帰れるくらいのもんだったらそのまま雇い主に持ってくけど。
多分無理だろうねぇ」
「ふーん。だったらオレだけでも良かったんじゃない?」
「封印はナルトに解いてもらうけど、
その機械が笑って済まされないようなものだった場合はオレが始末しないとね。
後、この情報が他に漏れてたら戦闘になる可能性もある」

もちろんおっちゃんを抜きにした全員が戦闘要員だ。

「にしてもナルトがこんなに重宝されるようになるなんてねぇ。
封印解除の初歩の初歩の縄抜けの術も出来なかったのに。
先生はホント嬉しいよ」
「それは凄いねぇ」
さすがナルト。
とまるで褒めてるみたいに爽やかな笑顔でサイが言う。
その笑顔の後ろに非戦闘員のおっちゃんが目に入って、
オレは殴りかかりたい衝動を押さえつけた。
今あの術解けたらきっとおっちゃん死んじまう。

オレはぐっと堪えて口も閉じた。



オレが封印術の修行をし始めたのは、
この世界が終わるかどうかという戦争が終結してからすぐのことだった。
オレの体にはいくつもの封印術が施されてて、
それを管理する為には自分でどうにかするしかなかった訳だけど、
一番どうにかしたかった封印は敬愛する父親が
命をかけてし掛けていった最高峰な術だったもんだから
オレの苦労ははんぱなかった。
オレが自分にかかった封印術を好きに解いたり掛けたりできる頃には
あらゆる封印術を理解出来るようになっていた。
それで今回の任務って訳だ。

そんなややこしくはなかったハズの国外任務。
カカシ先生の言った、
笑えない代物だった場合どんだけ任務伸びるんだろ。

一週間で帰りたい。
サスケが待ってる。
本当は少し寂しがりやなんだ。
今は互いが互いをたった一人の家族だと思ってる。

見た目はオレとそう変わらない。
サスケと本当の意味で知り合ったのは下忍になった時。
煩いのが嫌いで無口な彼は
同じ歳とは思えない大人びた雰囲気を既に持っていて、
今のサスケとを比べても見た目は17とはいえ
あの頃のサスケよりも今の方が随分幼く思えた。

あのイタチが愛して愛した家族。

ちっちゃい頃のサスケは本当に可愛かったんだろうな。

早く帰りたい。
修行つけてやるって約束もしてる。

それにもうすぐあの日だ。



サスケ。



お前を失って、お前を抱きしめた暑い日が。



また来ようとしてる。












その日は、オレが覚悟を決めてサスケに会いに行った日だった。

いつもの場所にいないサスケを探して、
辿り着いたのは病院の一室。

部屋の外まで聞こえてくるのはサスケの声。
それに被さって聞こえる声は知らない人だ。

「何言ってんだよ!嘘つくんだったらもうちょっとマシな嘘つけよ!!」
「何度も言うが、これは嘘じゃない」
「父さん呼んで!警務部隊にいるのはあんたらだって知ってるだろ!?」
「君の父親は死んだんだ」
「嘘だ…っ!!母さんっ、兄さ…っ」
「あの時、うちはの生き残りは君しかいなかった」
「嘘だ…」
「嘘じゃない」
「そんなこと…信じろなんて……無理だ。
もう誰もいないなんて。殺されたなんて。
信じられない…。嘘だ……うちはが…?みんな…?
そんな……酷いこと……みんな殺すなんて。
……殺してやりたいっ…オレが殺して…っ」
「うちはマダラは死んでるんだ。君はもう仇を取った」
「そんなの知らない…っ」
だって何ひとつ覚えてないんだから!!

ベッドに座るサスケの周りを囲んでいた上層部の連中がオレに気付いて場を譲った。

心臓が痛いほど鼓動が鳴った。
目の前には泣いたのか目を赤くしたサスケがいる。
幼い口調。
記憶が削除されて。
うちは一族惨殺の記憶もなくて。
オレと過ごした記憶も。
もう……ない。

「ねぇ、本当にマダラってヤツがやったの…?」

暗い声。

「これ…封印術?何で……オレが?」
拘束されてるの?
「それは…」
「おかしくない?オレ何かやった?」
「違う。君は何もしていない。ただ…」
「ただ何?まるでこれじゃ……」
オレが何かやったみたい。





「もしかして…………オレが殺した?」



父さんを
母さんを






兄さんを





その呟きに若い男が反応した。
あからさまに。
まるでサスケの言葉を肯定するみたいなタイミングで。

「え…?」

何の確信もなく口にしただけの言葉に返ってきた相手の反応。
それを見たサスケの目が大きく開いた。

「オレ……だったの…?」

駄目だ。
オレは咄嗟にブルブル震え出したサスケの手を掴んでいた。

「離せっ…!」
「違う!!サスケじゃない!!」

気がつけばそう叫んでいた。
記憶の欠如に身内全員の喪失、
それを裏付ける育った身体。
サスケは顔を真っ青にさせて
異常なほどだらだらと汗をかいていた。
呼吸が浅い。
激しい混乱がサスケを襲っていた。

「何が!?オレが……殺したんじゃなかったら何なんだよ!?」
オレだけ生き残ってるなんておかしいと思った!!

この身体が!!
この手が!!

みんな殺したんだっ!!

「……どうなってんの?
もう嫌だ…。こんな…オレなんか…」
死んだ方がいい。
死にたい……。
でないと、

……ひとりだ。

「サスケは一人じゃねぇ!」
「だって誰もいないって…っ!」
オレが殺しちゃったから…!!

「サスケは殺してない!」
「何でそんなこと…知ってるんだよ。見てたっていうの!?」
「見た訳じゃねぇけど、サスケじゃねぇってばよ!」
「見てないのに!?何でそんなことあんたに分かんだよ!?」
「見てなくても分かる!サスケはっ……」
サスケは父ちゃんも母ちゃんも、
イタチのことも大好きで大事だったから、
殺したりなんかしない。

握ったサスケの手を額にあてた。
カチャリと額当てが音を立てる。

「何で…そんなこと……知って……の…っ」
「それは」
オレが
「サスケの友達だから」

顔を上げた先には苦しそうなサスケの顔。

「友達……て……」
「そう。だからお前のことオレは知ってる」
「でも、オレは…」
「サスケがオレのこと知らなくても、
オレが知ってるから」
「……オレじゃない?」
「ああ。だから心配しなくていいんだ。
サスケじゃない。大丈夫。
お前はちゃんとお前の家族のこと愛してて大事に思ってたから」

それはオレちゃんと見てたから。

「本当?」
「本当」
「じゃ…あんたは、だれ?
オレ、知ってる気がする…」

ぐっと堪えてたのが溢れそうになった。

「もっと、ずっとチビだった」
「うん」
「しゃべったこと…なかったけど」
「うん」
「いつも一人だった」
「あん時はな」
「今は……?」

オレ…笑えてるかな?
喉、苦しいけど。

「お前がいたからさ……」
オレは一人じゃなかった。

握ってた手が強い力で握り返された。

「名前…教えてよ……」

ああ、サスケ。
オレはどうしたらいいんだろう。
今、必要とされてるんだ。

オレも。

オレもお前が必要みたい。




オレは
うずまきナルト




「…ナルト」
「うん、オレの名前はうずまきナルト」
「……っ」

サスケの今は黒い目が苦しそうに眇められた。
それを見てるのが嫌で、
気が付けばオレの手は涙で濡れていたサスケの頬を慰めるみたいに撫でていた。

「なぁ、サスケ。ないものはさ。欲しいって思っていいと思うんだ」
「欲しいもの……?」
「そう、欲しいもの。オレも」

だからさ

「オレたち家族になろ?」

握り込んだサスケの手はそのままに、
オレはベッドへと身をのりだして、
少し湿ったサスケの首を、
もう片方の手で引き寄せた。

「そうしたらさ、オレもサスケも寂しくなんかねぇだろ?」

言い聞かせるように強く抱きしめる。
少しして、肩に重みがかかった。

その暖かさが愛しくてたまらない。
大切に大切に守ってやりたい。
お前が残していったもの。

「…一人にはしないから」
「ナルト……っ」
「…これからはオレがサスケの家族になるから」

必死にしがみつくみたいに抱き返してきたサスケの体温は、
何だか本当に子供みたいに熱くて、
その時だけは
大事なものを失くした胸の痛みを無理矢理抑え込んで、
心の中で何度も何度も願った。



オレはどんなに辛くてもいい。



どんなに悲しくてもいい。



どうかこの子を幸せにして下さい。












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