サスケとサスケ







とはどんなものかしら?3






ナルトが任務に行ってから十日が経った時、オレは言われていたようにシズネさんに会いに行った。
いつものように火執務室の隣室にいたシズネさんはそろそろ来る頃だと思ったとオレの顔を見て笑った。
どうやらナルトからの定期報告で手こずってるらしい内容が届いた時は決まってオレが会いに来てるらしい。
言われてちょっと気まずくなった。

「なんか長引いちゃってるみたい。応援はいらないってあったけど、四日前に派遣しておいたから今日か明日には帰ってくるんじゃないかな」
「ありがと、シズネさん」

今日か明日……。
明日、オレ誕生日なんだけどな。

少し考え込むようにしてたオレにシズネさんは椅子から立ち上がると、

「サスケ君、この後時間あるんだったら定期検査したいんだけど、いい?」
「別にいいよ」
「本当は毎月来て欲しいんだけどね」
「……ごめん、アレあんまり好きじゃなくて」

オレは記憶を失ってから定期的に検査を受ける事になっている。
原因が分かれば記憶が戻るかもしれないし、医療技術の向上の為にもなるし力を貸せとのことらしい。
それはいいけど、オレはシズネさんにも言ったようにその検査が嫌だったりする。
痛いことをされるわけでもないけど、隠し事をしているオレとしては頭の中まで覗かれそうな精密な検査は負担が大きかった。

「全部シズネさんかサクラちゃんが検査してくれたらいいのに」
「そうしてあげたいのはやまやまなんだけど専門外なのよ、ごめんね」
「ううん」
「じゃ、行こうか」

オレが頷くのを待って、シズネさんは書類の束を手に部屋を出ようと促した。

それから3時間、みっちり隈なく検査されてげんなりしていたオレに、シズネさんは毎月ちゃんと来てたらこんなに長引かないのよって笑って言った。



隠し事。オレはナルトにも言ってないことがある。
何度か打ち明けようと思ったことがあったけど、結局オレは今のナルトとの生活を壊しかねない秘密を誰にも言えずずっと抱えている。

オレの秘密。
ナルトが九尾を身に宿しているように、
オレもこの体のどこかにオレじゃない何かをかくまっていた。

オレはその正体を知らない。
人のようにも思うし、化物のようにも思う。
ただそいつはひっそりと暗い闇の端っこで、何重にも張られた結界の中に封印されていた。

それは普段からずっと身近にいるとかじゃなくて、夢でたまに会うことが出来るって程度のものだけど、間違いなくそいつはオレの中で生きている。
初めてその存在に気付いた時そいつは言った。

『お前の中にオレがいることが知れたら』

お前、殺されるかもな。

そう言われて、何故かオレはそいつの言葉が嘘でも脅しでもないと直感した。
その時にはナルトが九尾の人柱力ということで、彼を巡っての戦争が勃発した事も知っていたから、この存在がそこまでの影響を周りに与えるとは思わなかったけど、歓迎される類いのものじゃないだろうことは何となく分かった。

それからオレは時々そこに迷い込むようになって、何故かその空間にいる時のオレは実際のオレよりも随分短い手足をしていて、話す声もいつもより高く、精神世界とも言えるようなそこじゃあオレは記憶を失う前の姿で存在しているようだった。

その空間の奥の隅っこには頑丈そうな檻があって、その中で男は叫ぶでも喚くでもなく大人しく封印されていた。
そいつは無口な上気まぐれで、話しかけても返事がないのは当たり前、抑揚のない声で話しかけてきたかと思えばすぐに黙り込む。
突っつきにくい奴だとは思うけど、不思議と嫌いではなかった。

そして今日も紛れ込んでしまったオレは、少しだけ格子から距離を取って座り、輪郭も分からないくらい濃い闇の中にいるだろう男に話しかけた。

「久しぶり。起きてるんだろ?」

闇が少し動いた気がした。
どうやら今日はオレの相手をしてくれる気らしい。

「……寝てても起こすだろ、お前は」
「だってここ暇だし」
「……」
「ナルトまだ帰って来ないし」
「……」
「明日、てもう今日か、オレ誕生日だし」

なのにまだナルトは帰って来ていない。
でも心配はしてない。
ナルトは本当強いから。
だからいつもより少し頑張って間に合わせてって思うだけ。
去年までは母さんと兄さんが必ず祝ってくれた。毎年じゃなくても忙しい父さんも。
今年はナルトが祝ってくれる。

『ちゃんと戻って来るから』

そう言ってくれた。

「子供だな」
「そうだよ。悪い?」
「おまえ、期待はするなよ」
「……何が言いたいの」

だって祝ってくれるはずだ。
家族だって言ってくれた。
クリスマスもお正月も一緒に過ごしてくれた。
休み取るの大変そうだったから別にいいって言ったのに。
そんなナルトがオレの誕生日すっぽかすわけない。

「戻って来ないかもしれない」
「何でそんなことあんたに分かるんだよ」

こいつは自分のことを滅多に話さない。
だから名前も知らないし、歳も知らない。
暗闇の中から姿を見せることもない。
自分を特定させることも言ったことない。

「今日はお前が記憶を失った日だ」
「だから何?」

嫌な言い方だ。
でもそれはオレとナルトが出会った日でもあるってことだ。
そんな日にナルトが戻って来ないなんて、
あるわけない。

「あいつが"サスケ"を失った日でもある」
「!」

男がナルトのことを話すのに、
親し気にあいつと言うことに、
酷い違和感と、
不安と、
嫌悪を感じた。

「……オレと出会った日だ」
「どっちが大事なんだろうな」
「うるさいっ!」

ガシャン!!

オレは思わず目の前にあった格子を思い切り殴りつけていた。
当然痛みはない。
焦りみたいな不快な感情が身体中を駆け回る。

だって、ナルトは”サスケ”のことが本当に大事で大切で、
馬鹿みたいにパニくって泣き喚くしかできなかったオレに
手を差し伸べずにはいられなかったくらい、
”サスケ”のことが好きなんだ。

分かってる。
何でナルトがオレといてくれるのかなんて知ってる。


でも、選んで。






オレにはもうナルトしかいないんだ。


だから、
オレを選んで……!




あふれ出す感情を無理やり押さえつけるように、抱えた膝の上に額を押し付けた。

ずっと長い間そうしてて、気がついた時には窓の外が薄っすらと明るくなり始めていた。



どんなに気配を探っても



この家にはオレひとりの気配しかなくて



あいつの言葉否定するみたいに



明るくなってく窓の外を



睨みつけることしかできなかった。













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