サスケとナルト







とはどんなものかしら?4






第四次忍界大戦も終わり
忍連合軍の勝利となって半年
敵軍のほとんどが死人であったため
戦いが終わったと同時に裁かれるべき人間は
ほんの数人しか残らなかった
しかし、その生き残った彼らも
計画のほんの末端にしか関わっておらず
今日、晴れて自由の身となる


抜け忍となっていた
うちはサスケ一人を残して……




どこからか水が滴る音がする。
定期的なその水音を聞きながら、
オレは術式のかかった木格子に背中を預け、
それを隔てた奥にいる男に話しかけた。

「随分前にさ、オレ封印術の修行してるって言っただろ?」

中からの返事はない。
いつものことだ。
それでもオレは気にせず話し続ける。

「妙木山でまた修行つけてもらってたんだけどすっげぇ難しくってさ。
ちょっと間違えると逆にオレが封印されちまうんだ。
ここに来るの久しぶりだろ?
その間ずっと封印されっぱなしだったんだってばよ」

その時のことを思い出して
オレは顔をしかめた。

「でもその代わりモノにできた。
なぁ、サスケ聞いてる?」

返事はないけど、
きっと聞いてくれてるに違いない。

「オレさ、この体に封印されてる九喇嘛とか
ゲロ寅のおっちゃんとか自由に出来るようにしなきゃなんなくてさ。
そのために頑張ってたんだけど、
でも本当はそれだけじゃねぇんだってばよ」

冷たい格子を掴む。
すぐ近くにいた。
多分、手を伸ばせば届く距離。
でも、これ以上近づくことはできない。
見えない結界がオレとサスケの間にあった。

「もうすぐ、この中から出してやるから」

お前を自由に

「サスケだったらどんな追っ手からも逃げ切れる」

それがサスケにオレが出来る最後のこと。

本当はずっとそばにいて
昔のように怒ったり笑ったりしたかった。

どんな理由があろうとサスケが抜忍だったことには変わらない。
抜け忍は問答無用で死罪だ。

サスケ君の場合改悛を示したとしても
情状酌量でどれだけ刑が軽くなるかも分からない。
さらに黙秘を続けているの
と心配したサクラちゃんの言葉も、
修行の苛烈さが増した原因でもあった。






大戦も終わり木の葉に帰ってすぐ、
サスケが投獄されたと聞いたオレは
真っ先に綱手ばぁちゃんの元へと向かった。
もちろんサスケの放免を訴えるためだった。
どんなに言葉を尽くしても、
結局ばぁちゃんの答えは変わらなかったけれど。



『何で…何でなんだってばよ……。
サスケは十分苦しんだ。
親類みんな失って、
イタチまで……もうやめてくれよ……』
『ナルト、お前の気持ちは私も分かる。
もし私がお前と同じ立場だったら私も同じことをするだろう』

だが、私は火影だ。

『先だっての大戦もそうだった。
もし今後また何らかの事情で国を上げての戦争が勃発すれば
私は火影として、
木葉の全忍もしくは連合軍所属の忍へと
敵軍殲滅の命を下すだろう。
そこにある判断材料は敵か味方か、
戦闘員か非戦闘員かの違いでしかない。
目の前にいる相手が善人か悪人かも関係ない。
命令を下すことに躊躇なんかしていられないからだ。
いかに多くの味方を残し、
いかに多くの敵を減らすかを常に考えて動かなければならない。
犠牲も出る。
親しい者を時には死地と分かっていて
送り出さなければならないことだってある。
自来也のことでお前とは一度やりあったな。
ヤツが火影だったらあの地へと私を行かせなかったと。
私もそう思う。
だからこそ自来也は火影にはならず、
私が火影になった。
友を失って悲憤の思いはある。
謝罪しろと言われればいくらでもする。
確かに私はヤツの命を奪ったのだからな。
でも私は今でもあの時の選択を間違っていたとは思わないし、
悔いてもいない」

それが戦場での私の役割だからだ。

『火影として国を守り民を守るという使命が私にはある。
だから非情だと言われようとこの考え方は変わらない。
忘れるなナルト。
どれだけ人のためと任務をこなしても、
人を殺傷出来る力を持つ武力集団だからこそ
私たちは常に命を意識した掟に等しく
縛られないといけないんだ』

私も、お前も、サスケも。

『武力行使の力を持ち、
時には人殺しさえ正当化される立場にあるからこそ
掟を軽くみることは絶対にあってはならないし、
許してはならない』

お前が目指している火影は
ただ手を差し伸べて守るだけが
役目じゃないんだ。

『だからナルト、
火影として私はサスケの処罰をなかったこととして
許すことはできない。
だが最初に言ったように私がお前の立場だとしたら
最後まで
諦めないだろうな』

お前はまだ


火影じゃない。


『今からお前に命を下す。
上忍術はもちろん、超高等術、奥義、極意
ありとあらゆる封印術をマスターしろ。
それに必要な人選、場所はいくらでも揃えてやる。
期限は半年』

それ以上は待たん。

『ただ間違うなよ、ナルト。
お前が望むカタチと
相手が望むカタチが同じとは限らない。
同じ人間じゃないんだから、当たり前のことだ。
その中でお前が最善と思うことをやり遂げな。
私は私の忍道を曲げることは出来ないが、
だからといってお前が間違ってると言うつもりもない。
ナルト、お前のその気持ちは絶対に
捨てるんじゃないよ』

それで苦しもうが
辛かろうがね。

『それに、
牢に繋がれるだけが償いだと私は思っちゃいないよ。
ましてやただずっと牢に入ってるってだけ
で許されるなんてあるわけないんだ。
イタチを手にかけたサスケの罪は
一生消えることなんてない。
むしろその罪の重さを受け入れているなら
死ぬことこそが解放なのかもしれない。
それはサスケにしか分からないことだ。
それでもお前が諦めないって言うんなら、
半年という期間を
お前とサスケにやるよ』

私が言えるのはそれだけだ。






『ありがとう、ばぁちゃん』
礼を言うのはまだ早いんじゃないのかい?
そう言って

五代目火影は笑った。






もうすぐ約束の時が来る。

「オレはサスケが生きててさえくれればいい」

綱手ばぁちゃんの忍道。
オレの願い。
サスケの望み。

違って当たり前だ。
それでもオレは我儘で頑固だから、
自分のやりたいようにやるし、
言いたいことを言わずにはおれない。

「お前がどっかで生きて呼吸してるって
思うだけでオレは頑張れる」

どうかオレの願いをきいて。

「里抜けしたサスケに仲間がいるって知った時は、
何かすげぇ嫌な気分になって悔しいって思ってたけど、
今だったら素直に嬉しいって思えるってばよ。
たとえお前がそばに居なくてもどこにいても、
オレは絶対後悔しない」

あの命をかけた戦場の中、
またお前と一緒に戦うことが出来て、
分かったんだ。
互いが一つのように
そばにいることだけが全てじゃないって。
三年も離れてたけどオレたちはまるで
ずっと一緒に戦っていた仲間のように、
オレはお前のこと分かってて、
お前もオレのこと分かってた。
だからオレは戦争が終わって姿を消すだろうサスケを、
寂しいと思いながらもちゃんと見送るつもりだったんだ。

「オレはお前がお前の思うように、
仲間と助け合いながら生きててくれたら
本当にそれでいいって思ってたんだ。
オレじゃない誰かに幸せにしてもらって元気でいてくれたら、
そんで、たまにオレのこと思い出してくれたら、
どこにいたってもう本当にそれだけでオレは
満足できるって」

だから別れ際、
お前が暗部に拘束された時、

「本当にお前のことを思うなら、
オレはあの時何が何でも、
全力でお前を逃がしてやんなきゃいけなかったんだ」

ごめんな、サスケ。
覚悟してたつもりで、
でも間違った期待もしてたんだ。

「だから明日」



ここの結界を解く



……サスケ。



お前は自由になれ。



「オレはお前に…生きて欲しいッ」



声が掠れた。
これがオレの覚悟だ。
ここでお前手放して、
もう一生会えなくてもいい。
生きててくれるだけでいいんだ。
それだけでまたオレは笑っていられる。

涙が止まらなかった。

その時、結界の向こう側、
壁にもたれて俯いていた顔が上って、

サスケの今は赤い瞳が
真っ直ぐオレを見据えてきた。

「……オレの望みはここにいることだと
言ったら……どうする?」



ナルト。


低い声で呼ばれた。
久しぶりに聞くサスケの声。
たまらず両手で格子へと縋った。

サスケの左手がオレの手へと合わされる。
触れているはずなのに、
冷たい感触しか感じないことから見えずとも
間違いなくここに結界があることが嫌でも分かった。

「……お前はオレが呼吸さえしてたら……
どれだけ離れててもかまわないと言ったが」

もう片方の手も合わせられる。
顔が近づいた。

「オレはこの体がどうなっても……
たとえ魂魄となっても……」

お前のそばにいたいと言ったらどうする?



最後の最後。



ようやく口にした



サスケの望みは



オレが最も聞きたくなくて



最も望んでいた答えのように思えた。












恋とはどんなものかしら?_5→
←恋とはどんなものかしら?_3
←戻る