短編『時化るは奥底の』と繋がりました……







とはどんなものかしら?5






思っていたより難航した任務をどうにか終了させ、
行きより増えた人員で帰路を目指す。
後数刻走れば火の国の国境というところで、
オレはカカシ先生に寄りたい場所があるんだと伝えた。
何かを察してたのか、
特に理由を聞いてくるでもなくカカシ先生は了承してくれた。

寄りたい場所。

次々と止むことなく降る雪を見ていたら、
思い出す光景があった。
まだオレ達が真新しい額当てつけて、
話せば怒鳴りあって、
触れば殴り合ってってしてた頃のこと。
それでもオレはあいつのこと信頼してたし、
あいつもオレのこと信頼してた。
真っ白の世界にいたらふと、
そんなこと思い出した。

明日は”サスケ”がオレを忘れてしまった日。

そしてオレが”サスケ”を失った日。

せめてオレだけはちゃんと覚えてたいから、
あいつの失くした記憶、
ひとつひとつ拾っていきたくて、
オレはひとり、あの大きな橋がかかる国を目指した。



あの日は、不思議と波が凪いでいて、
時計が時を刻む音に近い思いで波の音を聞いた夜だった。

ある一つの決心をして眠るサスケの部屋を訪れた。
サスケが眠っている間、何故庇われたのかそればっかりずっと考えてて、
でもそれがようやく自分に置き換えて分かったから。

そう、もしあの時倒れていたのがサスケだったら
オレも迷わず敵の前に出てた

仲間だから、大切だからこそ、
ううん、もしかしたらそんな気持ちもそこにはなくて、

ただ、そこに在ったから

そんなとても忍らしくない、人間くさい感情だったとしたら。
オレはそんなサスケと同じ班になれて本当に幸運だと嬉しく思ったんだ。

『でも、やっぱりこのままってのは癪に触るし、
負い目だとか思いたくねぇから』



あの時お前に救われた命、
いつか、どうしても、本当にどうしようもなくて、
もしもそんな時がきたら、お前を救えるならこの命、
サスケになら返してもいいって
それを言いにきた



『サスケが嫌だっつっても。もう決めたんだ』

これで対等だろ?

そう言ったら、
サスケはめずらしく肩を震わせて笑って、

『せいぜい待ってればいい。
オレがそんなヘマするわけねぇけどな』

いつものいけ好かない顔でそう言ったんだ。

『うっわ、ムカつくってばよー!
見てろよ。いつか、絶対ぇサスケの大ピンチの時に
格好よく登場してやるってばよ!』






ああ、やっぱりここはあいつとの思い出が強過ぎる。
「なんか……鼻の奥がつんつんするってばよ」
しんみりしそうになる気持ちを紛らわせるように、
さっきから独り言ばっかりだ。

見上げれば大きな橋。
死にそうになりながら守りきった。
誇らしい気持ちでいっぱいになる。
先ほどちらりと寄ってきた町は、
昔のように荒んだ空気はなくなっていて、
商売っ気のある活気な声と、
おしゃべりに花を咲かす賑やかな声が町を明るくさせていて、
そこここで見かける子供らもとても元気だ。



”サスケ”は見たのかな。
大変そうだけど、
希望に輝く
この笑顔のあふれる
町の人たちを。



見てたらいいな。



「あー!ダメだダメだ!!しんみりすんなってばオレ!!」
パンパンと
音が鳴るくらい両手で頬を叩く。
泣く為に来たわけじゃない。
「よっし、次はイナリの村!」
ぐすんと鼻をならして、オレはあの優しい波音のする村へと向かった。










ある程度の修行が出来るようにと広めの家屋がナルトとオレには与えられていた。
ここはどこか家族と住んでいた家と似ていて落ち着く。
居間にあるテーブルの上にはケーキの入った箱が置いてある。
さっきサクラちゃんが持って来てくれた。
二人で食べてって。
まだ帰って来てないって言ったら
サクラちゃん、驚いた顔してた。
ナルトと任務一緒だったサイさんも帰って来てるって。
もう夕飯の時間もとっくに過ぎてる。
でもお腹は減ってなかった。
当たり前だけど、一人でケーキを食べる気分でもない。
(冷蔵庫入れないと……)
そう思いながらも、オレはテーブルの前から動けなかった。
力が抜けたみたいにじっとケーキを見ていることしかできない。
小さくため息が出た。
(期待するな……か)
でも、しない方がおかしい。
ナルトの誕生日の時は、何かの祭礼と重なってるらしくて
沢山の人がナルトを祝いにきたから、
オレもその日がナルトの誕生日なんだって知ったんだけど、
でも、友達だったって言うんだったら知ってるはずだろ……。
げんにサクラちゃんはオレにケーキ持って来てくれて、
おめでとうって言ってくれた。

オレが覚えてる最後の誕生日は、
母さんと兄さんが祝ってくれて、
父さんはいなかったけど、
オレが欲しがってた忍術書全巻を部屋に置いてくれてた。
手づくりのケーキに誕生日プレゼント。
ろうそくはいらないって言ったのに母さんはちゃんと7本用意してて、
でもせっかくだからって言われて火を吹き消したら
おめでとうって祝ってくれた。


(遠いな……)


あの頃はこんなことなるなんて思いもしなかった。
また次の年も同じように祝ってくれるんだと思ってた。

別にナルトに祝ってもらいたいとか、プレゼントが欲しいとかそんなんじゃない。
ただこんな特別な日には一緒にいたいって思うだけだ。

(知らないだけなら別にいい。知ってて戻ってこないんだったら……)


きっとナルトは”サスケ”に会いに行ってるんだろうな。


ふと、そんな気がした。
















「かーっ!やっぱきっついってばよ!」
オレはごうごうと音を立てて落ちてくる水音に負けじと声を張り上げた。
とにかく走って走った。

あの後、白とザブザの墓にも行って来た。

二つ並んだそれを見ていたら、

『……君には大切な人がいますか?』

そう問いかけて笑った白を思い出して
やっぱり少し泣いてしまった。
一人ぼっちだった白。
その白の手をとったザブザ。
二人のそれまでの関係を思うと、
とても幸せそうには見えなかったけれど、
でもひっそり寄り添って眠りについたあの時の二人の顔は
どこか満足しているようでもあったのだ。
それを思い出したら、急にサスケに会いたくなった。
もう一人なんだと涙を流したサスケ。
それを放っておくことなんてできなかったオレ。
少し似ているなって思ったんだ。
もうそれは一年も前の話だけど。
あの時は必死でオレにしがみついてきた。
でも今はどうなんだろう?
そう言えば今回の任務の話をした時、
珍しくオレの帰りを気にしてた。
当初の予定より随分遅くなってしまったし”サスケ”のこと思い出してたら、
今さら一日二日、帰りが遅くなろうと対して違いはないだろうって思ってた。
だから本当はもう少しあそこでゆっくり海でも眺めて、
森で花を摘んで二人に供えたりして、
イナリやタズナのオッチャンの顔見て帰るつもりだったのに、
結局二人が眠る墓標に手を合わせてきただけだった。
早く家に帰りたくて、
やっとここまで戻って来た。


「でもやっぱり、ここも……」

思い出が強すぎて、胸が痛い。足が止まる。
何かがあるわけじゃない。
ただ”サスケ”と戦ったってだけ。

「あん時はさぁ、本当」

手足が千切れてでも連れて帰るって思ってた。

「あいつ、容赦なかったよな」

憎しみに取り憑かれた目してて、
自分以外はみんな敵みたいな目してて、

「いっぱいヒドイこと言われたけど」

”サスケ”の本音

「初めて聞けたんだ」

終末の谷。

「それ嘘だ。ここから始まったようなもんだってばよ」

大岩の上まで移動して、ごろんと寝転んだ。
ちょっと休憩。
空には満天の星と赤みを帯びた月。
今、オレはここに流れ星を見かけたら何を願うんだろう?
最後に必死に願ったのは

今までずっと苦しんだ分、”サスケ”の思うように自由に。

今は?
オレは何を願う?

「あ…っ」

絶妙のタイミング。
本当に一瞬だ。
三回も唱えられるわけない。
それでも頭をよぎった願いは、

「……やっぱりサスケだ」

目からは今日何度流したかわからない涙がまた流れた。
やっぱり今日は寄り道して良かった。
こんなに泣いていては恥ずかしすぎる。



「サスケ、オレやっぱりお前に会いたくてしかたねぇ……」














恋とはどんなものかしら?_6→
←恋とはどんなものかしら?_4
←戻る