Middle Of Nowhere  2






初夏の校舎屋上。
厚い雲が空を覆ってボクたちを見下ろしていた。
雨の予感がする。

君は不機嫌な様子を隠しもせず
ボクが今から言おうとすることに苛立ちを見せた。

「話って何だよ。この後用事あんだけど」
「用事って…、3組の桜井さんですか?」
「分かってんだったら
わざわざ呼び出してんじゃねーよ」

青峰君は面倒くさそうにフェンスにもたれ掛ると腕を組んだ。
そうすると威圧感が増して彼をよく知らない人だったら
怯んでしまうことだろう。

あの日
青峰君の抱える歪みを実感した日から
ボクたちの関係は大きく変わった。

まず、ほとんど彼は練習に参加をしなくなってしまった。
このままだといつかはそうなるだろうと思ってはいたけれど。
試合にさえ…いや試合にこそ彼は失望してしまっていた。

今までバスケに占められていた彼の時間が
他の何かに変わるのはとても早かったように思う。

青峰君の隣にはいつも違う女の子がいるようになった。

所詮中学生のお付き合い、されど思春期のお付き合い。
そういった噂は驚くほど広がるのは早く
大所帯であるバスケ部に所属しているボクの耳に
それらの噂が入るのは案外簡単なことだった。

だからといってボクがそれに傷付いたかというと
そういう訳ではなく。

何故なら、
バスケにだけ向けられていた彼の直向さは徐々に反れて
今は大きく離れてしまった理由を知っていたから。




君は言った。
とても暑い日だったね。


『練習したらうまくなっちまうだろ』

ねぇ、君は好きなものほど

『頑張ったら頑張った分だけ、バスケがつまんなくなってくんだよ』

大事であればあるほど

『これからは、試合もテキトーに流して…』



君は
それらを
遠ざけてしまう人なんだ。







だから桃井さんも受け入れない。


そして、
これ以上近付くことをボクに牽制した意味。

自惚れでもいい。
ボクが君の中でどの位置にいるかまでは
分からないけれど
言葉で君に勝つことの出来ないボクは
それを利用するしかないんだ。

「でも、こうでもしないと青峰君はボクを
…見てもくれないじゃないですか」
「何言って…。お前の薄さをオレのせいにすんじゃねーよ」
「確かにボクは人より影が薄いかもしれない。
でも君にだけはボクの存在をいつも知っていて欲しいから…」

君の中でボクの存在を消すようなことは
したことはなかったんです。

「テツ…?」
「すみません、青峰君。
ボクはバスケのように君を待っていることはできません」
「何言ってんのか、分かんねーよ…」

ボクが何を言いたいのか分からないふりをした青峰君が
フェンスから身を起こしボクに近付く。

「今からボクは君を裏切ります」

もっと早くに気付けば良かったんだろうか。
そうしたら君を傷付けずにすんだんだろうか。

「前に、言っただろ…。終らせてーのかよお前は」

青峰君が力まかせにボクの腕をつかむ。
それは彼の気持ちをまるで代弁してるみたいだった。

見下ろす瞳に小さな怒りが混じる。

けれども
完全なる拒絶を出来ない弱い君の背を
ボクは押さなければならない。

「今の関係は終わらせないと君は駄目になってしまいます」

もっと違う関係にボクたちはならないといけない。

「ならねーよ…!!」


そんな、
好きなものを食べきってしまわないように
少しずつ大切に大切に食べてるような君を
ボクはもう見ていたくないんです。


「青峰君…もうずっとボクは君のことが……」











君との決別を選んだボクと
ボクを許すことのできなかった君が





再会を果たすのはこれから約1年後のこと












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