Middle Of Nowhere  4






青峰大輝
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無題
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やっぱアイツ潰すことにしたから






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火神君が青峰君と出会った日の夜
一通のメールが届いた。

火神君から聞いていたけれど、
本当に青峰君は彼を試しに行ったようで

何を返しても今のボクと青峰君では先に進めないと
それに返信をすることはなかった。

自分は何が出来るかを考え
自分が何をすべきかを考える。

そうして導き出した答えを君にぶつけたあの日


ボクたちは桐皇に大敗してしまったんだ。













「テツくん!またいつか
バスケやろーね!みんなで!」

そう言って手を振る桃井さんを見送った。

「みんなで…か……」

また昔のようにみんなでバスケをするには
そのためにまずしなければならないこと……

さっき桃井さんに見せた技を完成させないと。

「…ボクたちも戻りますか」

足元をうろうろする2号にそう声をかけて歩き出す。

より道の前に青峰君には駅まで来るようメールを送っておいたから
きっと桃井さんを見つけてくれるだろう。

そういえばヒジを痛めたと聞いた。
彼が決勝リーグ残り2試合を欠場した理由。

それと合わせて二人の喧嘩の内容を思い出して口元が緩む。
相変わらず桃井さんは青峰君の世話をしているらしい。
可愛くていじらしい人だと思う。
早く仲直りしてくれたらいい。
きっと青峰君も本心で邪険にしたわけじゃない。
少し、気がたってただけだ。
本気で彼が桃井さんを嫌いになるなんてあるわけない。

彼女の立場が羨ましいと思ったことは何度かあった。
家が近い彼らは練習で夜が遅くなると良く一緒に帰っていた。
今でもそんな関係は変わらないんだろう。

『お前があんなこと言わなかったら
今もオレの隣にはお前がいたかもしれなかった』

電話越しに言われた言葉が
何度もボクを思考の淵に落とした。
たらればを言ってもキリがない。
でも考えずにはいられない。

あのままボクたちが同じ高校に通い
バスケをしていたとしたら。

確かに君はボクの隣にいたかもしれない。
でもボクの力を必要としてくれない君の隣は
どれほどの苦痛だろうか。

いやそれよりもやっぱりボクは思ってしまう。
君はもっと楽しくバスケができる人なんだと。

強く輝くような光を一番近くで見てきたボクは
それを諦めることがどうしてもできなくて
君をもう一度振り向かせたくて
今こうやって悩んで足掻いて

まだ君の前に立とうとしている。

あの日
君と久しぶりに顔を合わせて胸に蘇ったのは
可愛らしい恋心なんてものじゃなかった。
あれはぞくぞくするような恐れとか畏怖であるとか
そんな感覚に近かったように思う。
一言でいうと気圧された。
君の放つ圧倒的な闘気とも言うべき熱量に
ボクは怯んでしまったんだ。

フェンスの向こう側にあるゴールを見つめた。
その上に浮かぶ下弦の月が青く陰る。
その時、

「テツ」

あぁ、とボクは癖づけるようにボールをいじっていた手を止めた。
自然とため息が出る。
ボクを『テツ』とそう呼ぶのは
青峰君だけだ。

「桃井さんは見つかりませんでしたか?」

思い通りにならなった落胆が声に出ていたらしい
振り向けば不機嫌そうな青峰君の顔があった。

「お前もさつきもよけいなお世話ってやつが本当好きだな」
「余計だとは思いません。
夜道を女の子一人で帰すのはどうかと思っただけです」
「このくらいの時間普通だろ」
「桃井さんが今日、青峰君と喧嘩をしたと言っていたので」
「それがよけいなお世話っつーんだよ。
それともなんだ
お前はオレとさつきをくっつけてーの?」

すべてを言い終わる前に
一気に距離を詰めた青峰君が言葉を被せてくる。
ボクを見下ろす眸は冷たい色をしていた。

不穏な空気に2号が青峰君に向かって唸る。

「大丈夫ですから」

安心させるよう小さく声をかけ青峰君を見上げた。

「ボクはただ青峰君と桃井さんが仲直りしやすいようにしただけです」
「ふーん、じゃあ何でさつきはテツのシャツ着てたわけ?」

この人は……

「……桃井さん、見つけてたんじゃないですか」
「そりゃ巨乳が男モンのシャツ羽織ってたら目立つだろ」
「雨に降られてずぶ濡れになってたので貸したんです」
「へぇ……」
「青峰君…?」
「……それいいな」

青峰君の口元が笑みの形に作られる。

「何がですか?」
「テツとさつき」
「言ってる意味が分かりません」
「お前らこそくっつけばいいんじゃん」
「…何でボクと桃井さんが」

反論しようとしたボクを青峰君の鋭い目が押し止める。

「さつきだったら許してやる。
でも他は許さねーから。特に火神。
アイツ選んだりしたらテツでもマジボコるから」
「青峰君…」
「何だよ」
「君は自分が何を言ってるのか分かってますか?」
「分かってるし、いたって本気だから。
オレの好きなもん同士がくっついたら好きも倍増って」
「そんなのボクも桃井さんも馬鹿にしてます」
「してねーし。なぁテツ」

青峰君がボクの持つボールに手をかけた。
その時
撫でるようにボールの上を滑った青峰君の指とボクの指が触れ
咄嗟に引いてしまったボクの手からボールを取られてしまう。

「お前じゃダメなんだよ」

少し屈むようにして
ボクを覗きこんできた青峰君と目を合わせれば
諦めと憂いに沈んだ表情があった。

「…知ってます。だからボクは」
「お前じゃバスケは楽しくなんねーし
巨乳でもねーしてか男だし」

酷いことを言われている。

でもボクは君のそんな表情で
吐き出される言葉を信じることはできず、
ボクの中で闘争心とかプライドとか
そんな当たり前にあった感情が
影をひそめて
その否定を悲しいと思う前に

「でもオレは嫌なわけ。
テツがオレ以外のやつと楽しそーにバスケしてんのも
オレの知らねーとこで誰かと仲良くなってんのも」

君の歪んでいると思っていた感情は

「だったらさ、火神潰して
さつきと付き合わせりゃ全部叶うって分かった」

なんて稚拙で単純なんだろう。

「それは青峰君はボクのことが
…好きってことなんじゃないですか?」



ボクは震えそうになる声をぐっと抑え込んで

見下ろしてくる青峰君を見上げた。










ただいま青峰さん誠凜に勝って調子こいてます。












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