『それは青峰君はボクのことが
…好きってことなんじゃないですか?』





Middle Of Nowhere  5






「何言ってんだよ。それこそ意味分かんねーしてかありえねー」


ボクの言葉に動揺すら見せず
青峰君は訝しげにそう言った。
さっきからボクの心臓は
忙しなく動いているというのに。

「ならボクを束縛するようなことを言わないで下さい」

彼は本当に気付いていないんだろうか。
嫉妬にも似たその独占欲の意味を。

火神君の存在を煩わしく思う気持ちは分かる。
ボクだってもし青峰君に相棒と呼べるような
新たなプレイヤーが彼の隣にいたとしたら
ボクも試すようなことはしてしまうかもしれない。
本当に彼に相応しいかどうか。

「嫌なもんは嫌なんだよ」

さも当たり前のように
青峰君はボクの拒絶を否定する。
強く握った手が冷たくなる感覚。

こんなバスケと関係のないところで嫉妬されてしまうと
期待もしてしまうじゃないか

いくらボクを遠ざける意味を知っていたとしても
それでも君の見せる執着が
本当の特別なんじゃないかとか

今さら過ぎて

「ボクだって嫌です」

嫌だ。

「お前に拒否権はねーよ」

嫌だ…。

「テツがいくら嫌だっつったって」
「…嫌です」
「お前はさつきとはちげーもん」
「どう…違うって……」
「さつきはさつきだけど
テツはテツとバスケだって分かったんだよ」
「……」
「だからオレはアイツを認めねーし…」

無表情に見下ろしてくる青峰君から
ボクは逃げるようにうつむいた。

ぐっと我慢していた感情がここにきてあふれてくる。
喉奥を圧迫してくる塊を何度も飲み込んでやり過ごした。
すでに心臓は違う意味でドクンドクンと
痛いくらいに鼓動を打ちつけ始めている。

嫌だ、こんなことで揺らいでしまう自分が。
覚悟を決めたはずだ。
ボクは君の横ではなく
正面から向かい合う相手になるんだと。

でも君はそれを愚かだと言い
ボクの未練を思い出させ
そして君の強固に植えつけられた感情が
ボクを拒絶するんだ。

あの日
落胆の吐息とともに吐き出された言葉を忘れるはずがない。


『テツだけはありえねーし』


そう言われたのは初夏の校舎屋上。
ボクの言葉に返ってきた君の答え。
そう仕向けたのはボクだ。

でもあんな酷い言葉をつむいだ同じ口で君は



「テツがオレ以外のヤツを好きになんのも許さねー」

「ッ……」



こんな
睦言みたいなことを言う。

いつものように
軽くあしらうなんてこと
できるわけ…ないじゃないか

「だから…
嫌だって言ってるだろ!」

ボクの怒声に青峰君の目が驚きに見開かれる。

「ボクは…決めたんだ…!
青峰君とは違う道を選ぶって…!」

感情とともに膨れ上がっていた涙が
瞳に透明な膜を張った。
意地でも涙なんか流してたまるかと
まばたきさえ惜しんで青峰君を睨み上げる。
ぐっと感情を押さえつけ
冷静であれと何度も言い聞かせた。
呼吸を整える。

「まだ
ボクは諦めてません。
今度こそ桐皇を倒します」

本当にこれで良かったのかと
ボクは今までも何度も自問した。

君の笑顔をボクが取り戻したい。
君に笑顔を取り戻させたい。

そんな願いがボクのすべての原動力だったんだ。

好き過ぎて嫌いになってしまったバスケを
結局手離せなかったのも全部君のせいだ。

好き過ぎるから
すべての落胆や期待が
耐えられないくらい大きなものになって
自分に返ってくるのも分かってる。

君の気持ちが分かるとは言わない。
でも君が何を望んでいるのか
分からないボクじゃない。

「もうボクは
君自身を望んだりはしません」

最初は憧れだった。
それが尊敬になって思慕になって
ボクは君に恋心を持ってしまった。

でも仕方がないじゃないか。
人を本当の意味で好きになるのに
尊厳なくしてはありえないのだから。

だからこそボクはこの道を選んだ。

「ボクの願いは
コート上にしかありませんから」




違う道を選んだとしても



最後の最後



君と交わる場所を



ボクはもうずっと探している。














青?→||カベ黒 こんな状態












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