~Ver.






(サクラちゃん……サクラちゃん……。オレってばこの二週間、早く元気になってサスケを安心させてやろうと、病院を抜け出したいのも我慢して安静にしてたんだってばよ)
 綺麗にラッピングされた花篭をじっと見つめながら、ナルトは先日サクラと交わした約束を思い出していた。
(口には出さなかったけど、サスケが来るのを待ってたんだ。オレを心配するサスケなんて想像できねぇから、何て言えばいいんだろうとか、どんな顔をすればいいんだろうとか)
 ナルトはふつふつと込み上げてくる怒りを必死で押さえ込もうとしていた。備え付けの台に置かれた花篭から無理やり視線をはがし、無造作にそこに見舞いの花を置いた人物をにらみそうになる自分を必死で抑えていた。
 シーツを掴む手に力が込められる。震えそうになる手を叱咤し、ナルトはぐっと込み上げてくるものを飲み込んだ。
「明日退院だってサクラに聞いた」
サスケは見舞い客用の椅子に座りもせず、ナルトを見下ろしてくる。その不遜な態度はどこからどう見てもいつものサスケで、サクラの言うような心配のそぶりなど微塵も感じなかった。というか感じるわけがない。
「だから花なんて邪魔かと思ったけど、持っていけってうるせぇから。もう、体はいいのか?」
 ナルトの心情など気づきもしないサスケが、そんなことを聞いてくる。
 この前の任務でナルトは負傷した。サスケに敵ごと体を貫かれたのだ。敵を倒すためすすんで身を投げ出したとはいえ、ナルトとて痛みがないわけじゃない。しかし全てを承知の上でやったことだ。別にサスケに心配して欲しかったわけじゃない。何か優しい言葉をもらいたかったわけでも、労って欲しかったわけでもない。
 それでもこれはあんまりではないだろうか。
 自分が腹を割かれ、痛みと戦いじっと耐えていた間に、この男はあろうことか新しい彼女なんぞをつくっていたのだ。
(今度は花屋の娘だって!?フキンシンにもほどがあるってばよ!)
自分が死んだわけでも、サスケが喪に付しているわけでもないのは百も承知。だがナルトは心中そう叫ばずにはおれなかった。
怒りを静めることなんてできない。それが去ってしまったら後は、悲しみにひたるしかないではないか。
二人ともが生きて任務を遂行するためととった行動であったはずなのに、結局はそれに虚しさを感じずにはいられない。なぜなら今、目を背けようとしてもどうしても思ってしまう。
サスケのためにこんなにも頑張った自分に、彼は何という仕打ちをするのかと。そう思ってしまう自分が嫌で仕方がない。
ずっと彼だけを想い続けてきた。それがいつか叶う時がくるだろうなんて、思ったこともない。ただひっそりと誰にも知られないように、大事に隠してきた純粋な想いだった。
それが崩されたような気がした。
「おいナルト。まだ良くなってねぇのかよ。さっきから黙ってばっかで」
サスケの見当違いな言葉にナルトはさらに怒りを膨らませる。押さえているとはいえ、この怒りに気づかないサスケがムカつく。
そんなだからお前はいつもも見放されんだ。ちょっとは相手を気遣う心ってのを持ってみやがれ、とナルトは思わずにはいられない。
いつもであればひとりで話し続けているナルトが黙りこくっているせいか、意外にもサスケが話しかけてくる。ナルトとしてはもうここから出て行って欲しかった。
今日はいつもみたいに言葉をかけてやれそうにない。
『火影通りにある花屋の娘?可愛い娘じゃん。ムカつくけどお似合いだってばよ。今度は続くといいな、サスケ』
いつもであればそうやって祝福していたと思う。今までどんな相手でも、背中をたたいて喜んでみせた。心では泣いていたけれど。
でも今は無理だ。優しくするどころかひどく罵倒してしまいそうな心境で、ナルトはぐっとそれを我慢をする。ここでサスケを衝動のままに批難するのはたやすい。しかし、今まで何のために想いを伝えることはせず、胸に秘めてきたのか。
どんなかたちであれ彼の側にいたかった。
よき理解者として仲間として、そして友として。
そのために自分は……。
「もう平気だってばよ。跡も残ってねぇし」
 数日前まで赤黒く醜くあった腹部をナルトは見下ろした。それは服で隠れてはいたけれど、無意識に目はそこに留まった。
 じっとサスケが見ているのが分かる。
 静かにベッドに座っていると、徐々に怒りがおさまってくるようだった。途端に虚しさがナルトの胸をすく。
「サクラは跡が残るかもしれねぇって言ってた」
「残ってねぇよ。残ってたとしてもサスケが気にすることじゃねぇだろ。オレってば男なんだし」
そう言って笑おうとしたができなかった。どこかへ行ってしまった怒りは、みじめさを増長させてナルトの顔をうつむかせる。
少しの沈黙が二人の間を流れた。
それを破ったのはやはりサスケの一言だった。
「ナルト、見せろ。オレがやったとこ」
唐突なサスケの言葉にナルトは、え?と顔を上げる。
「何でサスケに見せねぇとなんねぇんだよ。もう跡は残ってねぇって言ってるだろ」
「いいから見せろ」
そう言って一歩近づいてくるサスケに、ナルトは体を強張らせた。
冗談ではない。自分はサスケが好きなのだ。そのサスケに服をめくって体を見せるだなんて、嫌すぎる。
「ナルト」
サスケが懇願するように名を呼んだ。ナルトの目がさ迷う。
何でいきなり見せろと言ってきたのかは分からないが、迫るサスケからは本気を感じた。
彼の中で罪悪だとか不安だとかそんなものがあるのかもしれない、サクラの言っていたことが本当ならば。
ナルトは観念したように、今にも服に手をかけてきそうだったサスケに「分かったってばよ」と承諾の意を伝えると片手で服をたくしあげた。
外気にさらした肌がひやりとする。サスケはナルトが座るベッドの端に手をついてきた。ギシリと小さく音が聞こえる。それが何だかいたたまれなくてナルトは口をひき結んだ。吐き出す呼気さえも憚れる空気漂う中、サスケの手が伸びてきた。
「本当、何も残らねぇんだな。お前の体は」
「何いまさら言ってんだってばよ。もういいだろ」
サスケの手を跳ね退け、服を整える。顔が少し赤くなっているかもしれなかった。
ナルトの態度を特に批難するわけでもなく、反対に感情のこもらない声でサスケが言う。
「あんな酷い傷がもう治っちまってる。それが、どうゆう意味か考えたことあるか?」
黒いサスケの目がナルトを捕らえる。
「普通は気持ち悪ぃとか思うんじゃねぇの。でもオレはありがてぇって思ってるってばよ」
違う、とサスケは小さくかぶりを振る。
「ヒトの一生で作られる細胞の数は決まってる。あらかじめ決められた回数だけ細胞分裂を繰り返すんだ」
「何言ってんのか……分かんねぇよ」
 自ら肌を見せるという羞恥と、サスケがこんな時に彼女をつくったという悲しみと、さまざまな感情がナルトを混乱させ彼が何を言おうとしているのか思考がおいつかない。
「決められた回数以上その細胞は、分裂することはできない。ナルト、お前もうどれだけの傷を負ってきた?」
「そんな……いちいち覚えてねぇってばよ」
 サスケが何を言いたいのか分からない。
「てめーはその力を過信しすぎだ。自分が我慢すればとか、自分が頑張ればとかいつも思ってやがる。それはてめーの寿命を縮めてるようなもんじゃねぇか」
 責めるようなサスケの言い方に、ナルトもいい顔をしない。
「そんなのサスケに関係ねぇだろ。それに最初はサスケがやろうとしたんだ。だったらオレの方が適役だって思ったんだってばよ」
 自分自身に言い聞かせてきたことをナルトは繰り返す。
「そうやって、てめーは自ら進んでケガするのかよ。今回だけじゃねぇ、また似たようなことがあれば、そうやって体はって飛び出していくのか?そんなの……やめろ」
「なに……サスケが怒ってんだよ」
「お前は後何年……生きられるんだ。どれだけの傷を負ってきたんだ、その体に。オレはお前をどれだけ……傷つけてきたんだよ」
 どこか悔いているようなサスケの声音。
確かに傷ついてきたかもしれない。本当であればこの体には、数え切れないほどの傷跡があるはずなのだ。
そうであったとしても、体の傷なんてたいしたことない。
今傷ついているのは心だ。
これだけサスケに思われながらも、寄り添うことができない。
だって彼が選ぶのはいつも自分じゃない他の誰かだ。
薬品の匂いが漂っていた病室に今は清しく甘い花の香りがまじっている。その存在がナルトをとても悲しく、惨めにさせた。
それを吹っ切るように、ナルトはサスケを仰ぎみる。
「んなの、たいしたことねぇってばよ。それに、サスケのせいじゃねぇ。」
 お前のせいだと言えたら、この心はどれだけ楽になるだろう。
「……オレのせいだ」
「違うってばよ。オレは絶対長生きするし、お前より先に死んだりしねぇよ」
 でも、そんなの言えるわけない。
「ナルト……」
 サスケの罪悪をナルトは感じ取る。それにあわせて、サクラの言っていたサスケが抱える無意識の不安。彼は身近な者の死を極端に恐れている。
 本当はもっとサスケに優しくしてやりたい。
 もし不安を抱いているというのなら、取り除いてやりたいと思う。自分の言葉で彼が安心するのなら。
 でも今は、自分の感情をコントロールするのも精一杯で、彼に気の利いた言葉ひとつかけてやれそうにない。
「もうオレ疲れたから寝るな。そろそろ遅いしサスケも帰れよ。彼女…待ってんだろ」
「……ああ」
 唐突なナルトの言いように、歯切れ悪くサスケが応える。
「花、ありがとうって言っといてくれってばよ。オレが赤い花好きだって知ってたのかな。あそこには良く買いに行くし」
「そうか、だから……」
 妙に納得した風にサスケがつぶやく。
「何が?買いに行くのが?」
「いや、赤い花が好きだって。てっきり黄色の花が好きなのかと思ってたが」
「黄色も好きだけど、赤の方が好きだな」
「見舞いに行くっつったら、これ持ってけって。知ってたんだろうな。あいつお前の話し結構するんだ」
サスケのその言葉にドクンと一際大きく鼓動が鳴った。嫌な感覚が体中にじわりじわりと広がっていく。
「なに……オレの話しとか…二人でしたりすんの?」
今ナルトは言い知れぬ不快感に身を置いていた。
想いをよせる相手と、その隣にいる彼女が自分の話しをする。
どんな話しを?と思う間もなく強く込み上げてくる不快感。
今までもあっただろう。その度にナルトは無理やり笑って「どうせオレの悪口だろー?」と茶化してみせてきた。
でもやっぱり今日は。
とてもつらい。痛くて仕方がない。
なんでだろう?傷なんてもうない。
あんなに醜くえぐれて、汚くて臭くて、醜悪だった傷。
でもそんなものは幻しか何かみたいに綺麗に消えてしまった。
もう跡もないんだ。なのに、痛みを感じるだなんて。
こんなのいつものことなのに、笑ってやり過ごせない。
今、ふと気を抜いてしまうと熱く感じる目の奥から涙なんて、そんなものまで出てきてしまいそうで。口を開けば震える声で、この無慈悲な男を詰ってしまいそうなのだ。
多分そんな心情が顔に出ていたのかもしれない。
一瞬サスケが意外そうな顔をして、
「お前。イヤだったのか……?」
そう言った。確信はしていない声。じっと見つめてくる瞳をただ感じる。
探るようなそれに、ナルトは早く何か言わなければ、と言葉を捜す。何でもいい、とにかく否定の言葉を口にしようとしいた。しかし、いまだ喉元を迫り上げてくる圧迫感がそれをさせてくれなかった。
首を振れば視界をぼやかし始めた涙がこぼれ落ちてしまうだろう。
言葉を発することも、否定の仕種をすることもできず、ただナルトは俯いていることしかできなかった。
それでも心は、まだごまかそうと働いて、早くいつもみたいに茶化した風にサスケに返すんだと、それができなければせめて違うんだと言わなければと急かす。
そうしてナルトが口を開こうとした時、それより早くサスケが口を開いた。ひた隠しに秘めていた本質の部分を。
「オレが女と付き合うの。お前……イヤだったのか……?」
そう続いたサスケの言葉にナルトの頭は真っ白になる。はっと顔をあげれば探るようなサスケの目とあった。
すでに心臓は違う意味でドクンドクンと、痛いくらいに鼓動を打ちつけ始めていた。
まだ間に合う「そんなワケないだろう、お前が受け入れてもらえるのは嬉しいよ」そう言えばいい。
早く……!今しかないんだから。何のために今まで……!
その時、シーツを強くにぎりしめてしまったからか、それとももう限界だったからか、目の淵で膨れ上がっていた涙がぼろりと落ちてしまった。それに続くように、もう隠しようのない涙がぱたたと音をたててシーツに散る。
我慢できなかった自分をナルトは激しく責めた。こんなところで涙を流してしまうだなんて。よりにもよってサスケの前で。これはもう好きだと言っているようなものではないか。
ナルトの血色の良い肌から血の気が引いていく。知らずシーツをつかむ手が震えはじめた。
「!」
瞬間もの凄い勢いで肩が捕まれる。反射的に顔を上げてしまって、サスケに濡れた顔を見られてしまった。咄嗟に手で顔を隠す間もない。
「お前……」
まじまじと見つめてくる目が、信じられないものを見たように見開かれている。しかし、すぐにそれが動揺へと変わったのをナルトは見逃さなかった。嫌悪でなかったのが救いか、しかしサスケの思考の範疇をこえていただろうことをナルトは敏感に感じ取っていた。
それ以前にも知っていたはずではないかと、ナルトは己を叱咤する。自分とナルトであったら「気持ち悪い」と、はっきりといつもサスケは言っていたのに。
「……ちが……う……」
ようやく声が出た、と否定の言葉を口にしようとした時、静かに病室の扉が開かれた。ハッと顔をあげたのは同時だった。
「うずまきさん検温の時間ですー」
緊迫した空間に、ここでの日常が割り込む。二人して顔を向けたことで、一瞬怯んだようであった担当看護師だったが、すぐにここにいた時間外来訪者に目を向けた。
「もう面会時間はとっくに過ぎてますよ」
やんわりとした口調だが有無を言わせぬ意思が込められている。自動で閉まろうとする扉を後ろ手で押さえているあたり、早く出て行けという彼女の催促が伺えた。
日頃から真面目な勤務態度を崩さないだけあって、ナルトからして彼女の言動は当然といえる。
ナルトの肩をつかんでいたサスケの手がのろのろと外される。ほっとした心地でナルトはゆっくり息を吐き出した。
「ナルト、また明日来る」
ベッドから降りたサスケがじっと見下ろしてくる。もう彼の顔に表情というものはなかった。
「オレ明日退院だってばよ」
「じゃあ、朝来る。荷物あるんだろ」
「いいってば。荷物もそんなねぇし。それにサスケ、明日も任務じゃねぇのかよ」
「今から変更出してくる」
当然のように言うサスケに、ナルトは苛立ちもあらわに声を荒げる。
「いらねぇって!」
「何でだ、わけを言え!」
 ナルトに触発されたようにサスケも語気荒く返してくる。ナルトは一瞬反論の言葉につまった。
「わ、わけなんかねぇってばよ!それに何でサスケにそこまで言わねぇとなんねんだよ!」
 あくまで話す気のないナルトのそれを聞いて、サスケは短い悪態をついた。
「だってお前さっきから変だろうが!顔は見てしゃべらねぇ、いきなり泣き出す!それっててめーはオレのことが……!」
「サスケ!!」
間髪いれずナルトがサスケの言葉をさえぎった。それ以上は言うなと睨みつける。
ややしてナルトは大きく息をつくと、呆然と立ち尽くしていた顔馴染みのナースへと声をかけた。
「ねぇちゃんごめんな、うるさくして。もうこいつ帰るから」
「おい!」
 サスケの意志を無視したナルトの言いように、彼は抗議の声をあげる。
「検温だったよな。えーとさっき計ってたんだってばよ。あれ、体温計どこいったんだろ。あれ?あ、あったあった」
ナルトは枕元へと無造作に置かれていた体温計を、彼女に差し出す。どこか安堵したような顔で受け取る彼女に苦笑して見せた。
小さく舌打ちが聞こえて、しかしサスケからの批難の言葉はない。
「明日……来るからな」
それだけ言い残して、サスケがドアの方へと歩いて行くのが視界に入った。スライド式のドアが静かに閉まり、サスケの気配がなくなって、ナルトは知らず肩に入っていた力を抜いた。
「うずまきさん、良かったんですか?」
「え?ああ、サスケ?」
「サスケさんっていうんですか?追い出した私が言うのも何だけど。何か深刻そうな顔をしていたし」
 脈計りますね、と最後に付け足した彼女に、ナルトはベッドへと身を預けると右手を差し出した。
「いつもの喧嘩みたいなもん……。でも当分顔見たくねぇから明日の退院朝いちでもいいかな?」
 手首の内側に彼女の細い指が軽く押し当てられる。腕時計に目を落とし、脈を数えている彼女の返答を待った。
 少し早いかなー、と苦笑する声が聞こえる。先ほどのサスケとのやりとりで脈拍が跳ね上がったのだろう、ナルトは小さく嘆息した。
 あれだけの失態を犯したのだ、サスケもナルトの気持ちに気付いただろう。でも言葉にして言ったわけではない。サスケの確信は、どこまでいっても想像の域を出ることはできないのだ。ナルトが認めるまでは何も変わってはいない。
それでもナルトはサスケと距離をおこうと心に決めていた。
 まずはサスケが何を言おうと、どんな態度をとろうと平静でいられるようになるまではと。
「はい、もういいですよ。……退院の件ですが、朝食が終わったらいつでもかまいません。ゆっくり朝食をとっても面会開始時間まではまだ時間もあるし」
「うん、じゃあそうするってばよ」
必要以上めくりあげていた七分丈の袖を直しながら、彼女の返答にナルトは笑みを見せる。
一時しのぎでしかないのは分かっているが、気持ちの整理をつけたかった。
「本当に一人でいいの?お友達を待っててあげたら?仲直りしたらいいのに」
お友達という言葉にちくりと痛みを感じる。
ナルトの憔悴を気遣う言葉には、親しみが込められていた。
「サスケは……いい。うん、もういいや」
まだふっ切ることはできない。でも自分が動かなければずっとこの関係は続くのだ。
少しずつでいい、距離を……。
「あの、私……手伝おうか?」
「え?」
己の思考に入り込んでいたナルトは、咄嗟に言われた意味が分からなかった。しかしすぐに明日の退院のことを言っているのだと理解する。
「今日は夜勤だから……待ってるし……」
そして、ただ彼女が退院の手伝いだけをしたいわけじゃないことを、その淡く桃色に染まった頬を見てナルトは気づいた。
「あ……」
今まで甘んじて受け入れていた彼との距離を、無理矢理変えるのは難しい。
ナルトの目の前にあったのは、己を変えてくれるだろう、優しく愛らしい微笑みだった。












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