~Ver. 6






近くのスーパーからの帰り道。本日、ナルトはオフである。
両手に下げたナイロンの袋が歩く速度にあわせて、カシャシカャと音がする。ずっしり重たいそれには食料から、日用品がごったに入っていた。
明日からナルトは、前々から希望を出していた長期任務へと向かう予定になっている。これらはその際に持って行くもので、長期ということから現地で物資はいくらでも調達できると分かっていても、つい大荷物になってしまう癖は、この歳になっても変わっていないらしい。
ナルトはそんな自分がおかしくなって、それを隠すように手に下げた荷物を持ち直した。
気分はいくらか軽い。ここ最近ナルトの気が安らぐことはなかったのだ。
(まさか、いきなり家に来るとは思わなかったからな)
三日前、ナルトの部屋にサスケが唐突に訪れた。
すでに電気も消し、ベッドに入っていたナルトは全神経を玄関先へと向けながら、じっと動かずにいた。
約束のない訪問を歓迎しない質ではないが、なにぶん相手が悪い。ナルトはまだサスケと顔を合わせたくなかった。
あれぼどの緊張をナルトは本当に久しぶりに体験したと思う。
しつこく鳴りつづける呼び鈴と、手荒く連打されるドアの合間にサスケのナルトを呼ぶ声がまじる。それを聞きたくなくて、布団を頭から被った。そうすると自分の慌ただしく打ち付ける鼓動をさらに意識することになるのだが、とにかくナルトはベッドの中で身を硬くしていた。
どれくらいそうしていただろうか、ふっと音が止んだ。
そして最後に一度ドアが叩かれて、
「話しがある。ここを開けろ、ナルト」
低く暗いサスケの声がした。
すがるような声だったような気がする。
例えば、もうあと一言でもサスケが言葉を発していれば、ナルトは、ベッドから降りてそのドアに手をかけていたかもしれない。
しかし、それから何の音沙汰もなく、静けさの戻った部屋の中、それでもナルトはじっと意識を部屋の外へと向けていた。
そして、完全に彼の気配がないことを確認してから、強張っていた体の力を抜いた。無意識に大きく息をついていた。
怖いというのとも違う、嫌だったわけでもない。ただ自分の体は大きな衝撃を受けた後のように、小さく体が震えた。
話しがあると言った。
やはりサスケはあの彼女と別れたのだろうか。それとも他にも何かあるのだろうか。
ナルトはもうこの時、サスケの別れ話を聞くのも嫌だったし、自分の気持ちを問い詰められるのも、避けている理由を聞かれるのも嫌だった。
はじめてサスケから背を向け、本気で逃げてしまいたいと思った。
とにかくこの部屋を出よう。それも早急に。
自分のこの心情を思えば、ナルトは決意せざるを得なかった。



ガサリ―――――。
部屋の鍵を出すためにナルトは一度、玄関前に買い物袋を置いた。ポケットをまさぐりサイに渡された鍵をつかむ。
サスケがナルトの部屋を訪れた次の日から、サイの部屋に身を寄せていた。表向きの理由は部屋の給湯器の不調である。前にサイが言ってくれた、不便であれば自分の部屋に寝起きすればいいという言葉に、結局ナルトは甘えるかたちとなった。自分の部屋とサイの部屋を行き来するのが面倒くさくなったとナルトが言えば、彼は何も聞かず笑って頷いてくれた。
本当はもっと情けなくて、でも切羽詰った理由があって。しかし、まだ言えるものではなかった。その理由がサスケだなんて。
今日、サイは任務でいない。もしかすると明日は彼と顔を合わすこともできずに、ナルトは任務へと向かわなければならないかもしれなかった。せめて、世話になった分は何か返しておきたいという気持ちが、この大量購入に至った。もちろん自分が持っていくものも割合を占めてはいたけれど。
ガチャリと、ナルトの部屋よりもいくぶん重厚な音がして鍵が開く。それを引き抜いてポケットに仕舞い、玄関前に置いていた買い物袋を拾い上げた時だった。
「!」
 背後からの強い衝撃にナルトは、しまった……!とだけ思った。
あとは口を開く間も、腕を振り切る余裕もなく、手に持った荷物ごと室内に突き飛ばされ床に倒れこんだ。
手荒に放り投げられた買い物袋の中から、いくつか買った物が飛び出して床に転がっている。ナルトはそばに立つ人物を見上げた。想像はついていた。顔を見なくても分かる。
気配で彼と自分が分からないはずがない。
「サスケ……ッ」
 ナルトは自分を手荒く部屋に押し込めた男の名を呼んだ。
「よう、ナルト。久しぶりだな」
 サスケがナルトを見下ろし、表情のない顔で言う。
 その声の冷たさに、その瞳の鋭さにナルトは一瞬息をのむ。
 無意識下でこれは誰だろう?と疑問が浮かんだ。それは間違いなくうちはサスケの声質であり、形をかたどっているのだが、ナルトはそう思わずにはおれなかった。
「いきなり何すんだってばよ、サスケ。痛ぇじゃねぇか」
 怒気をこめてナルトが言う。
「それくらいたいした痛みじゃねぇだろ。なぁ、ナルト。お前今まで何してた?」
 後ろ手でサスケが鍵を閉める音がした。ぎくりと反応してしまったのは、彼のまとう空気がひどく乱れていたからだろうか。
「オレに隠れて何をしようとしてんだ?」
 ナルトは嫌な予感に、サスケから目が離せないでいた。
 サスケは怒っている。その理由が分かっているから、ナルトはサスケの問いに答えられずにいる。
 自分は完全に彼から逃げようとしていた。遠くへ。心の距離はいかほどか。それでも物理的な距離を作らなければと、それだけをずっと思っていた。
そんな自分が情けなくもあったが、今自己嫌悪におちいっている場合ではない。サスケの様子が、少しおかしい……。
「別にオレが何をしようとオレの勝手だってばよ。サスケの許可なんていらねぇ。やりたいようにやるだけだ」
 その言葉を聞いてサスケの眉があがる。その表情はいつにもまして高慢だ。身を起こして身構えているナルトの側にサスケが近づいてきて、すっとかがんで膝をつく。そのままゆっくりとした動作で、床に散らばっていた歯ブラシをサスケは手に取った。
「こんなものまで……」
 小さな声が何かをつぶやく。拾ったそれを力任せに投げ捨てたサスケが近距離でナルトに向かって言った。
「ナルト。お前がオレから離れるなんて許さねぇよ」





「う…ぁ!」
 ぎりぎりと手首に食い込む痛みにナルトは顔を歪めた。どこからともなく現れたサスケの口寄せた蛇が、ナルトの両手を締め上げているのだ。しかも蛇はそれだけでなく服の隙間から侵入をはたし、ナルト自身に絡みつき始めた。
「なッ……!」
 床に転がるナルトをサスケは面白そうに見下ろしている。
「ナルト。ここを出て部屋に戻れ。そうしたらこんなことしない」
 ぐっと顔を近づけてサスケがそんなことを言う。
 ナルトは首を横に振った。自分は明日にはここを出て行くが、部屋には戻らない。里を出るのだ。サスケの言葉に頷くわけにはいかなかった。
 そんなナルトの意志が伝わったのか、サスケの目がすっと細められた。
「なら、好きにさせてもらう」
 サスケが言い終わらないうちに、ナルト自身に絡み付いていた蛇が巻きついてきた。強弱をつけて締め上げてくるそれに、ナルトは体を強張らせる。
「く……ぅ」
 サスケはひとまとめにしたナルトの手をつかむと、そのまま引きずるようにして部屋の奥へと入っていた。
「やめろってばよ、サスケ!離せッ!」
 ナルトは自由にならない体を懸命に揺らすが、それよりも頑としてサスケの手の力は強くゆるまなかった。広くとってあるリビングを突っきり、寝室へと続くドアをスライドさせた。
 サイとナルトが寝室と使っている部屋へと無理やり連れられ、ナルトは顔色を変える。今自分の体に与えられていることを思えば、サスケの真意に気づかないナルトではない。
(なに考えてんだ……!)
 さらにぐいと引っ張られ、ベッドへと突き飛ばされた。すぐさまサスケがのしかかってくる。ナルトが大きく息をのんだ。
「ここで犯してやるよ。そうしたらお前はここにはいられねぇだろう?」
「な、なに言って……?」
 見下ろしてくるサスケの目は、ナルトの知らない色をしていた。
「お前を抱くって言ったんだよ」
 ぞわりとナルトの背筋オを冷たいものが走る。
 黒々とした瞳の奥に炎を見たような気がして、ナルトは目をそらせないでいた。
 ナルトに絡み付いていた蛇がせわしなく動き出した。
「あ……ッ」
それが合図だったかのように、サスケがナルトの服を脱がし始める。下着とズボンを一気に引き抜かれ、ナルトの股間にのるようにして蛇が姿をあらわした。ぐるぐると巻きつかれてナルトのそれは蛇にうもれてしまっている。
「怖いのか……?」
 萎縮したままのそれを見て、サスケが酷薄そうに言った。ふっと首筋に男の息づかいを感じて、ナルトの体がびくりと震える。
 つっと胸元から臍の方へとサスケの指がたどっていき、ナルトに絡みつく蛇に軽く触れた。その瞬間、それが上下へと動きナルトをしごくような動きに変わる。ナルトの口から初めて快感をあらわす声がもれた。
「や…めろ……!サスケッ!」
「やめねぇよ。お前が戻ると言っても、戻らないといい続けても、お前がオレに抱かれることには変わりねぇ」
 何で急にサスケは自分を抱くだなんて言い出したんだろう。ナルトは蛇が与えてくる快感にたえながらも、頭をめぐる疑問に答えを出そうとしていた
サスケが怒っていることには気づいていた。その怒りの原因はナルトがサスケを避けていたということに尽きるだろう。サスケの言葉からして、どこからかナルトが長期任務を受けたことを知ったようだ。サスケは自分を引きとめたがっている。しつこく部屋へ戻れというのもそのせいだろう。しかし、今サスケの言ったことは、どんな結論をナルトが出そうと、抱くと言ったのだ。
自分を女のように。
理不尽な言動にナルトは怒りが込み上げてくる。
「ふざけんな、サスケ!お前の言ってる意味分かんねぇ!離せよ!今すぐ離せってばよ!」
 ナルトの中で快感よりも一瞬怒りが増した。めちゃくちゃに手足を動かして、とにかくこんなことやめさせようと暴れる。
 しかしそれも、強い力で足をつかまれ腹にサスケの髪の感触を感じた時には、動きを止めずにはいられなかった。
 蛇の愛撫で勃ちあがって姿をあらわしていたナルトの先端に、硬いものが押し当てられたのだ。それがサスケの歯だと気づくのに時間はかからなかった。
「噛み切られたくなかったら暴れるんじゃねぇよ」
 話すたびにあたるその感触にナルトは、恐怖よりも嫌悪を感じた。本当にこれはサスケだろうか?
 思考を奪うようにサスケの口がナルトの先端をふくむ。
 両手で足を押さえ込まれ、サスケの口から逃げることも叶わずナルトは直接的な快感に声をあげた。
「はっ……あぁ……!いやだ……あッ!…サスケ……!」
 びくびくと大きく体が震えた。ナルトが感じているものがサスケにも伝わっているようで、いっそう強くそこを吸われればたまらず高い声が喉をすぎる。
「あッ…あッ…あぁッ…!サスケッ…くちッ……はなッ……!」
 一気に追い込まれて、ナルトは体を硬くさせた。間違ってもサスケの口に放つわけにはいかない。そんなことナルトのプライドが許さなかった。
 しかし、ナルトに絡みつく蛇を思いのまま操りながら、じゅくじゅくとサスケの口を出し入れされれば、そんな気概も薄れてしまう。快感が溜まって、あふれそうだった。
「はなせ…サスケッ……!マジ……やば……ッから!」
 声が届いているはずなのに、サスケはナルトの割れ目に歯を食い込ませてくる。すぐに高い声があがって、それに反応したようにサスケが音をたてて吸い付いてきた。ナルトにはもう我慢ができなかった。
「あッ…!あああぁ……!」
 腰を突き出すようにしてナルトは精を吐き出した。
どくどくとサスケの口の中にそれらが放たれたと思うと、悔しさに涙がにじむ。快感の放出に震える体をかかえながら、ナルトは顔をあげ口元をぬぐうサスケを睨みつけた。
「お前、お前……。いったい何がしたいわけッ?こ、こんな酷ぇこと……!」
 ようやくまともに話せるようになったナルトがサスケを詰る。
「ならお前がしたことは酷くねぇって言えるのか?」
 口に残っていたナルトの残滓を手に吐き出し、暗い声でサスケがナルトの問いかけに質問で返す。
「こんな裏切り。許せるわけがない」
 ナルトに言い聞かせるというより、自分に再度確認するようなサスケの様子に、ナルトは焦りのような感覚がわきあがる。
「お前……おかしいってばよ……」
 ナルトは見下ろしてくるサスケの瞳に吸い込まれるように、目を大きく見開いていた。
ナルトに落ちる影が濃くなった。
「おかしくしたのはお前だ……」
 ゆっくりサスケの顔が近づいてくる。
 なぜかナルトは顔を背けることができなかった。












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