攻めるサスケ







とはどんなものかしら?7






「いって…ッ!」

ガタンという音の後に、
打ち付けた頭と体に痛みが走って、
オレは小さく呻いた。

目を開ければ髪で暗くなったサスケの顔と、
滅多に見ることない台所の天井。

腹の上にはサスケが乗っていて、
一瞬これは馬乗りで殴られるパターンかと思ったけど、
サスケの腕は振り上げられることはなくて、
腹の上が軽くなったと思ったら、
その両手はオレの顔の両脇につかれた。

当たり前だけど、サスケの顔が近付いた。

「えーと、オレ…殴られるわけ?」
この態勢。
「殴られたいの?」

オレはもちろん首を横に振って、
否定の返答をする。

「じゃあ、何だってばよこれ?」
「……さあ」
「さあって」
「知らない。体が勝手に動いてた」

あ、と思う。
そのセリフは、

「前にもオレ同じこと言われたってばよ」
「…誰に?」

見下ろすサスケの目が鋭くなったような気がした。
でも気にせず答える。

「サスケ」
「オレ?」
「下忍の時な」
「まさか同じシチュエーションとか言わないよね?」
「は…?」
「何でもない。
……それでどうしたの?」

気を取り直したように、
サスケが続きを促す。

「あ、うん。
任務中ヘマしてぶっ倒れてたオレ庇ってさ、
お前死にそうになったんだ」
「……」
「そん時オレ情けなくて悔しくてさ、
怒ってサスケに怒鳴っちまったんだってばよ。
『なんでオレなんか庇ったんだ』って」

あの時のことをこんな風に話すのが不思議で、
オレは小さく笑ってしまった。

「そしたらサスケがそう言ったんだ」
「随分カッコいいね"サスケ"」
「ああ、カッコよかった。
でもそれ認めんのも悔しかったんだ。
だからオレはいつか"サスケ"がピンチになった時は
体張って守るって決めてた」

また、サスケが苦しいみたいな顔をした。
そんなサスケの顔を見るのは、まだ少しつらい。

「今そんな話しをするのはズルい」

目線を台所の隅の方にやって、言い難そうにサスケが言う。

「何でだってばよ?」
「牽制されてるみたい」
「サスケ、言ってる意味が…」
「今のオレ、全然カッコ良くないし」

確かに命懸けでオレを庇った"サスケ"と、
今のこの馬乗り状態のサスケとを比べたら。
まぁでもそれより、

「どっちかって言うとオレの方が、カッコ悪いと思うけど」

あらためて、この態勢はどうだろう。
殴られるの待ってるみたいだ。

「……だから?」
「ん?」
「そう決めたから、ナルトはオレの側にいるのって?」

あ…、
やっぱり幼いなって思った。

そりゃ、最初は"サスケ"だからって思ってる部分はあったけど、
そんなのもう通り過ぎてる。
やっぱり守ってやりたいって気持ちも強い。
あの時サスケに宣言したからかじゃないって、
今は言い切れる。

「違う。オレはオレがそうしたいから、サスケの側にいるんだってばよ」
「ずっと側にいてくれる?」
「サスケが望むなら」
「望んでる」
「じゃあ、ずっと一緒だってばよ」

そう言ってにっと歯を見せて笑ったら、
サスケもはにかんだ風に、
やっと笑ってくれた。
オレはどうしてか、サスケのそんな幸せそうな顔を見ると、
嬉しくて何故か切なくなる。




「じゃあさ、オレもナルトに」

キスしていい?



「へ?」

態勢に疑問はあったものの、雰囲気に流されていたオレは、
仲直り出来た嬉しさに浮かれて、
サスケの言った言葉を良く聞き取れなかった。

「へ、じゃないよ。していいか聞いてるんだけど」

ぼんやり見上げるオレに、
サスケが覗き込むようにして聞いてきた。
言ってる意味は分かるけど、
何でそうなるのかが分からない。

「いや、あのもっかい言ってくれってばよ。
良く聞こえなかったみたいだ」

色々誤魔化すようにもう一度聞いてみた。

「あんたにキスしていいかって聞いた」
「い!」
「いいの?」
「…嫌だってばよ!」

ちょっとこの態勢ってそーゆうことか?
何かオレ凄いことになってんじゃ…!

「何で?したことあるんじゃないの、オレとは」
「したけど、あれは事故!!」

サスケの眉間にシワが寄る。

「じゃあ今からするのも事故ってことでいいよ」
「よくねえ!」

即答するオレに
あからさまにサスケの顔が悲しそうに歪んだ。
きつい口調で拒絶してから、しまったと思う。
サスケの顔が伏せられて、オレの胸元にサスケの髪が広がった。

「じゃあ心込めるから、いいって言って……」

胸元からくぐもった声が聞こえた。
オレの視界にはサスケの真っ黒な髪しか見えなくて、
サスケがどんな顔して、
そんなこと言ってるのか分からなかった。

だから、そっちの方が困るんだって、
てオレはサスケに言えなくて、

「いいって言って……」
「……」

そうやってもう一度催促されたら
オレにはもうサスケを押し退けることは、
出来なかった。
だからといって、いいよとも言えないオレは
うな垂れるように顔を伏せるサスケの頭を、
ゆっくりと撫でてやることしか出来なくて。

あぁ、オレってば本当に
サスケに甘い。
結構大事なことだと思うんだけど、
嫌だってもちろん思ってるんだけど、
オレもサスケも男だし。
でも、例えばこれでオレが拒絶して
サスケが泣いたり傷付いたり、
悲しい思いするくらいだったら、
ちょっと口と口がくっつくくらい、
まぁいっかって思えるんだ。



オレの手を了承と取ったのか、
本当にゆっくりと
サスケは片方づつ床に肘をつけて、

じっと動かず待ってたオレに


触れるようなキスをした。






その感触は本当に一瞬で、
柔らかいとか暖かいとか思う間もなく、
サスケは離れていったから、
正直オレは拍子抜けしてしまった。

初めてサスケとした事故ちゅーは、
本当に衝撃的というか、
口が触れたとかそんな軽いもんじゃなかった。
口とか頬とか全部が思い切りくっつく勢いで、
痛いくらいの感触だったんだ。
だから今、
そっと触れるかどうかのキスは、
思っていたよりも穏やかで、
ただただ恥ずかしいものだった。

多分、サスケもそうなんだろな。

顔をあげられないのか、
そのままオレの首筋に頭をすりつけてきて、
なんだか大型の犬か猫が甘えてるみたいに思えた。







サスケの髪が頬に当たってくすぐったいのをどうにか我慢して、
気が済むまで甘やかしてやろうと思ってたんだけど、
さすがに暑くなってきてたオレは、
オレの首に懐くサスケの背中をぽんぽんと叩いて
体を退けるよう促した……
んだけど……。

一向に動く気配のないサスケに、
オレは声をかける。

「サスケ、そろそろ退いてくれってばよ」
暑っちぃ。
サスケと重なってる部分からじわりと熱が生まれて、
汗で湿ってくるのが分かる。
そういやオレ、任務帰って来てから汗流してない。


「嫌だ」

嫌って。
それはオレのセリフだと思うんだけど。

「サスケ、重いから退けって」
「体重かけてないから大丈夫」
「サスケは大丈夫でも、オレは大丈夫じゃねえの」
「こうされてるの嫌…?」
「嫌ってわけじゃねぇけど」
「本当に嫌だったら…退けたらいいし…」

確かに。

オレは物凄く嫌ってわけじゃなかったから、
暑っ苦しいけどサスケを力尽くで押し退けようという気はあまりなくて。
ただ、

「オレ任務帰ったばっかで、まだ風呂も入ってなくて汚ねぇんだってばよ。
におうだろ?」
だから退いて。

ってゆうオレの言葉にもサスケは頭一つ振るだけで。

「今は…無理」
「何でだってばよ?」
「分かん…ない……」
「うん?」

さっきから、気のせいかもしれないけど。
サスケの声、ちょっと震えてるような。

「ちょっと教えて欲しいんだけど…」
「何だってばよ」
「……痛い時って…どうしたらいいと思う?」
「え?サスケどっか痛いのか?」

何でサスケが?って疑問はおいといて、
起き上がろうと、腕に力を入れた時。

「動かないで…っ」

ちょっと焦ったみたいな、
でもどっか艶っぽいサスケの声が耳元でして、
オレの体は言われた通り固まって、動けなくなってしまった。

サスケの下敷きにされていたオレの腹の部分、
いっそうサスケの体重がかかってきた。

えと、あの……
オレ、どーしたらいいんだろう。
気付いちまったんだけど。

「あー……サスケ?」
「もうちょっと…待って」
「はい……」

顔、熱くなってきた。
きっと赤いに違いない。
サスケの体も熱い。
それが伝染したみたいに、
顔だけじゃなくオレの体全部にも広がってるみたいだ。

「お、落ち着いたってば?」

オレも何だか焦ってしまって、訊ねる言葉もどもってる。
まず落ち着かないといけないのはオレの方かもしれない。

「よけい…ヒドくなったような、気が…する……」
はぁー…。

耳元にサスケの熱い吐息を感じて鳥肌がたった。

「……大丈夫だってばよ、サスケ。
男なら誰でもそんななったりするからさ」

出来るだけ普通に聞こえるようにそう言ったんだけど。

「じゃあ、ナルトも…こんななったりする?」
「んー……うん」

うなずいてから、
さすがにこんなシチュエーションでなったことはないけど、
と心の中で付け足す。

「!」

返事を聞いたサスケがさらに体重をかけてきた。

「…ぁ」

ぐっとそこを押し付けられて、
落ち着きを取り戻し始めてたオレは
また、かっと体温が上がってしまった。

「これ…どうやったらおさまんの……」
「ちょ……」
これは、
「…ナルトは…どうしてんのか教えて…」
「ば…っ」

ぐりっと擦り付けるように腰を動かされて、
そのあまりのいやらしさに、
逃げ出したくて泣きそうになる。

「ねぇ…オレ……つらい……」

ちょっと…本当、オレどうしたら……

オレの時はエロ仙人と修行の旅に出てた時で、
『便所で扱いて出して来い』
で終わってしまったんだけど。
それ、言えばいいわけ?

「サスケ……あのな…」
「…なに」
「え…と、トイレ行って…」
「今ナルトと離れたくない…」

さらにきつくしがみつかれた。
あああああぁ……

「それは…困る…っ」
「…何で?」

白いの出るから……
とか、何か言いづらい…

「色々…汚れるからだってばよ」

出来るだけ穏便にすまそうと
言葉を選んだつもりだったんだけど、

「いいよ、汚れても…」
「オレは…嫌だ……」

何て説明すればいいんだろう。
そうゆう汚れとまた違うんだって。
ああぁ…もう本当にどうしようもない……。

オレの動揺なんて興奮してるらしいサスケには
何の効果もなくて、
もぞもぞとオレの上で動くもんだからたまらない。

「ナルト、さっきまだ…お風呂入ってなくて……汚いって……」

吐息多目のサスケの声が、
耳をしっとり濡らしてくる。

「……だったら後で…一緒に入ればいいだろ…」


て、
あのサスケの声で、
抱き込むように腕を回されて、
熱くささやかれれば、
今までなんとか普通にしてたオレの下半身が、
ずくんと甘い疼きを訴えてきた。

それを自覚して、
あまりの恥かしさに、
いたたまれなさに、
上に乗っかってたサスケ思い切り突き飛ばして。

「べ、便所で扱いて出してきたらおさまるってばよ!」

真っ赤な顔してそう叫んでた。








オレに突き飛ばされたサスケはというと、
後ろ手に尻餅をついた格好で、珍しくびっくりした顔してた。

そして、苦虫を潰したような表情になったサスケが、

「……何か出た」

そう呟いた。

「何これ……気持ち悪い……」
「え…と…」
「男は本当に誰でもこうなんの?」
「え……あ、うん」
「ナルトも?」
「まぁ、一応……」
オレも男なんで。

サスケは、ハーと大きく息を吐くと、
抱えた膝に顔を埋めてしまった。

「サスケ?」
「…最悪」
「えと、ごめん……」
「……話しかけないで」
「ごめん…」

どうやらショックを受けてるらしい。
でも、仕方ないと思うんだけど。
多分、今までサスケは…
その…性処理ってのをしてなかったと思うんだ。
ストレスとかで勃たなくなるって聞いたことある。
記憶失して、周りの環境も変わって、
体が機能してなかったんじゃないかって。
で、そんな時にキスとか人の体温とか感じたらさ。
だから、別にそこまで落ち込まなくってもと思うわけで。

「サスケ…?別に漏らしたわけじゃないんだし」
「分かってる!!」

わ、やばっ。

膝から顔を上げて、
真っ赤な顔したサスケが
ギラギラした目を向けて来た。

「責任取って」
「は?」
「それかナルトも同じことして」

待て待て待て待て何でそうなる。

「落ち着けサスケ」
「今までになく落ち着いてるつもりだけど」
「それは、お前…」

イッたばっかだから落ち着いてるように思うかもしれないけど、
頭の中は普通じゃないぞ。

「ナルト」
「ごめんなさいってば」
「謝ってなんて言ってない」
「だって他に思いつかねぇ」
「思いつかなくっていいよ。黙ってオレの言うこときいてくれたら」
「お前なぁ……」

いつものサスケだ。
脱力するオレを気にすることなく、サスケがまた大きくため息をついた。
ため息吐きたいのはオレの方だってのに。

「じゃあ、キスして」
「また、お前はそんな無茶ブリを」
「ナルトからしてくれたら、もうこんなこと言わない」

真剣な顔に押されて、
もう一度ため息を吐く。

やっぱりオレはとことんサスケには甘いらしい。

「……分かったってばよ」

オレはそう言うと、
床に座り込んでるサスケに近付いた。

感情の分かりにくい黒い瞳、
艶やかな長めの黒い髪。

オレの目線の先に気づいて、
え?って顔する弟みたいな彼の額に、

オレは、心を込めてキスをした。


そして、
「誕生日おめでとう。サスケ」



これでごまかすわけじゃないけど、


やっと言うことの出来たオレは、


ちょっと不満そうな顔したサスケに


多分満足そうな顔を見せることができたと思う。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
多分、サスケさんはこれからつらい目にあうかと思うので、
ちょっと良い目(?)に合わせてあげました。



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