核心に入っていきます。







とはどんなものかしら?8






「ナルト!!受けずに避けるんだ!!」

鋭いネジの声に、
次に来るだろう攻撃を迎え撃つ気でいたオレは、
常にないネジの声に素早く身を引いた。
次の瞬間、オレのいた場所から見たことのある黒い炎が上がる。
それは一瞬で業火となって、
辺りを黒く燃やし始めた。

これは―――!

「ナルト、下がってろ!!ネジはサスケを!!」
「はい!」
「カカシ先生!!」

額当てをずらして現れた写輪眼の紋様がぐにゃりと歪む。

「神威!!」

術の発動とともに勢いを増していた黒い炎が
渦をまくように別空間へと吸い込まれてゆく。

最後に黒い点を残して全てが消えた後、
サスケが地面に膝を着くのが見えた。

「サスケ…!」

額にびっしりと汗を浮かべたサスケが顔を上げる。

「今の…何だよ……」
はぁはぁ、と
肩で息をしながら
誰に問うでもなくサスケが呟いた。

「ナルト、大丈夫か?」

隣にいたネジが服の焦げ跡を見つけて、
声をかけてくる。

「ああ、オレは大丈夫」

それに何でもないと頷いて、
オレはサスケの隣に屈み込んだ。

「サスケ?」
「オレ…ナルトの動き…
止めようと……火遁の術……」
「うん」

オレは上下するサスケの肩に手をおいた。

「でも、ナルトは風遁で吹き消しちまうから…
消えない炎をって強く思ってたら、オレ……」

サスケの肩に置いてた手が掴まれて、
もう大丈夫だとゆっくり離された。
それでもまだ立てないんだろう、
そのままの体勢で
近くにいたカカシ先生へと
サスケは顔を向けた。

「カカシ先生のさっきの目は何?
……写輪眼とはちょっと違うみたいだったけど」

カカシ先生の万華鏡写輪眼の発動は
ほんの少しの間だった。
自分の発動した術に驚きながらも、
外野のカカシ先生の動向まで
捉えてたなんて。
サスケの成長を嬉しく思う気持ちと、
戸惑う気持ちがオレには両方あった。

さっきのサスケの術は天照だ。

いつかはとは思ってたけど、
もしかしたら
今後あの技を見ることは
もうないかもしれないとも思ってた。

まさか教えられるでもなく、
まして見たこともない万華鏡写輪眼の術を
使うなんて。

きっとネジは白眼で、
サスケの眼球を覆ってる黒い膜の奥を
透視したんだろう。

サスケの目は赤く
手裏剣と六芒星の紋様をしていたに
違いない。

「何言ってんの。
オレのこの目はうちは一族の友達から託されたって、
話したことあったでしょ」
「でもあんたのは
普通の写輪眼とは違ってた」
「まぁ、ちょっと
特殊かもしれないけどね」
「万華鏡写輪眼……」

サスケが暗く
呟くように言った。

知ってたのか。

どくんと心臓が嫌な音をたてた。

「カカシ先生のさっきの術。
そうなんだろ?」
「良く見てるねぇ」
「ちゃかさないで」

カカシ先生が仕方ないみたいに、
ひょいと肩を上げてみせた。

「ああ、
さっきの術は神威。
万華鏡写輪眼で発動できる技だ」
「他にその技使える人は?」
「もう、オレだけだろうな」
「じゃあ、万華鏡写輪眼を開眼してるのは
カカシ先生以外には誰がいるんだ?」

カカシ先生を見上げるサスケの目が鋭くなる。
オレは息を止めて二人の様子を
見ていることしか出来なかった。

「うちはイタチ」
「やっぱり……」
「それと記憶失くす前のお前」
「オレ…?」
「ああ、さっきの技。
お前とイタチが使っていた。
天照。
あの黒い炎は術者が定めた対象物が
燃え尽きるまで消えない。
だからオレはあの消えない炎を
別空間に飛ばしたんだよ」
「天照……」
「元々お前が使っていた技だ。
今使えることは別に不思議でも何でもない。
ただ……」

まだ、早いかもしれないな。

「どういうこと…?」
「さっきはオレがいたから良かったけど、
いなかったらどうなってた?」
「……」

サスケが考え込むように黙り込む。

「ナルトはどうなってただろうな」

カカシ先生は真剣な目で、
じっとサスケを見つめていた。

「……オレはどうしたらいい?」

目を伏せてサスケが問う。

「そうだね」

カカシ先生は見えている片方の目を細めて、

「ナルト、お前がサスケの目を
封印してくれ」

そうオレに言った。

「え?」

オレがサスケの目を?

「まだサスケが万華鏡写輪眼を
コントロールするのは無理だ。
危険すぎる」
「オレもそう思うけど……」

確かに危険ではあるけど、
封印までしなくてもいいんじゃないか。

そう思いながら
オレはサスケに目を向けた。

「サスケは……いいのか?
オレはサスケが嫌って言うんだったら、
何もしない」
「……」

サスケの嫌がることはしたくない。
でも大袈裟とも思えるカカシ先生の提案は、
多分、危険だからって
だけじゃないんだと思う。

「別に一生ってわけじゃない。
時期が来たら解けばいい。
それはナルトが判断すればいいんじゃないかな」

「……分かった。
ナルトに任せる」

少しの間があってから、
サスケがはっきりとそう答えた。

「サスケ…」
「ナルトも封印した方がいいって思うんだろ?」

オレは小さく頷いた。

「だったらいい」
「もし何かあったら。
例えばオレが死ぬようなことでもあれば、
解けるようにはしておくってばよ」

基本、封印術は術者が死ねば解ける。
でも強力な術になれば例外も出てくる。
そうでないと封印の意味がない。
そのつもりで言ったんだけど、

「ナルトが死んだら、
この目の術なんか意味ないよ。
本当はあんたを守るために使いたい」

だからその為にも早く強くなって、
コントロールしてみせる。

いつになく真剣な目をオレに向けて、
サスケが言う。

「え…と、まぁ…そうだな、
早く強くなれってばよ」
「うん」

うあぁ……

あまり見たことないサスケの笑った顔を
真っ正面から見てしまって、
オレは顔が赤くなるのを、
必死で抑えようとしたんだけど、

「お前らね、オレたちがいること分かってる?」

カカシ先生の突っ込みに、
虚しくもぐあっと顔に熱が集中してしまった。
横でネジが何度も頷いている。

俯くことしかできないオレの横で
サスケがオレに向けた顔とは正反対の
ムスっとした顔でカカシ先生に答えた。

「分かってるに決まってるだろ」
「強気だねぇ」
「当たり前のこと言わないで」
「ほほう」
「ナルト相手に尻込みしてたら、
一向に先に進まない」
「まぁ、確かに」
「オレは進まなくていいと思うってばよ」

無駄だと分かっていても抗議の声を
上げずにはおれない。

「ほらね」

サスケはやっぱりムスっとした顔でそう言って
カカシ先生に同意を求めたみたいだったけど、

先生はそんなサスケとオレの顔を
交合に見て薄く笑った。

「先生は二人の味方だ」
「それ矛盾してるんじゃない」
「どんな風に育っても
二人ともオレの可愛い部下だからな。
どっちかなんて選べないよ」
「めんどうだから関わりたくないって
はっきり言ったら?」
「ははは、バレたか」

オレの抗議も虚しく二人の会話は続く。

「カカシ先生」

その時、二人のやり取りを見ていたネジが
一瞬目を走らせて、
カカシ先生を促した。

「分かってるよ」

オレたち以外の気配が近くにあった。
たまに感じる気配だ。

「とりあえず。
ナルト、良く考えてサスケに術をかけてくれ。
お前の家がいいだろう」
「分かったってばよ」
「そしたら今日はもう解散。
また結果を聞かせてくれ」

カカシ先生はそこまで一息で言い切ると、
まさにどろんと煙りの中に消えた。

残されたオレたちは、
そのまま修業することはせず、
ひとまず言われた通り解散することにした。





その日の夜。
オレはサスケと話し合って、
サスケの目を封印した。


いつまでかかるか分からないけれど、
特に今は慎重すぎるくらいがちょうどいいんだと
自分に言い聞かせた。
今日、特訓中に感じた気配は、
多分暗部のものだ。
今の根のリーダーはサスケが殺した
ダンゾウって人の息子だって聞く。
サスケに刑が下されて、
ビンゴブックからサスケの名前は消えている。
なのにサスケの周りから
暗部の気配が消えることはなかった。
嫌な予感がする。

多分、サスケが天照を放った時に
その気配はなかった。
でも暗部の中に、
例えば日向一族みたいに
遠視能力を持った忍がいれば、
見られたかもしれない。
オレ自身はダンゾウって人のことは、
ほとんど知らない。
でも、元根の者だったサイによると、
ダンゾウのうちはの目に対する執着は
物凄いものだって聞いた。
息子もそうだとは思わないけど、
それでなくても彼からしたら
サスケは親の仇だ。

オレは疲れて眠ってしまったサスケの黒い髪を、
そっとかき分けた。
穏やかな寝息。
明日は一日目が開かないかもしれない。

明日は一日サスケの世話でもして、
ゆっくりしようと思った。

「お前は今、どんな夢を見てるんだろうな」


おやすみ、サスケ。









「また来ちまったのか」
オレはいつもの暗い空間に迷い込んだことに気付いて、
ため息を吐いた。

「疲れてんのにな……」

今日は色々あった。
目の奥が熱い。
これが今日初めてこの目を使って、
術をはなったからなのか、
それともナルトに封印されたからなのかは
分からないけれど、
違和感のような熱は
当分引きそうになかった。

「あれ?」

何か、いつもと違う……

「なぁ、いるんだろ?」

格子のカタチがいつもと違うような気がする。
何重にもなってる内の
一番手前にあった格子は
いかにも封印してますって感じの
良く言えば強固な檻だった。

でも今オレの手前にある格子は
カタチこそ檻なんだけど
どこか丸みを帯びていて、
封印しているというよりは
守っているといってもおかしくない、
どこか柔らかい雰囲気を持っていた。

これって……

「また来たのか」

暗闇から声がした。
いつもより返答が早い。

「来たくて来てるわけじゃない」

聞きたいことはあったけど。
でも今はそれより……

「あんた、
何でそんなに上機嫌なんだよ」
「分かるのか?」
「分かるけど、
何でなのかは分からない」
「お前は知らなくてもいい」
「……檻、増えてるのにさ」

オレは最初に気付いた違和感を口にした。
いつも手前にあった檻が今はひとつ奥にある。
一番手前にある檻が増えたってことだ。

「……ナルトが作った檻だから?」

そう、これは多分ナルトが今日封印術を
オレにかけたから現れた檻だ。

「そうなんだろ?」
「さぁな」

そう短く答えた奴の声には、
いつもと違う優しさだとか甘さだとか、
そんなものが含まれていて。
正直オレが聞きたい類いのものじゃなかった。

「じゃあ、質問を変える。
あんたはオレの目に
封印されてるんだよな?」

ナルトがオレの目にかけた封印術。
新しく増えた檻。


封印対象は万華鏡写輪眼。




こいつはオレなんだ。




ただどうしても確信が出来ない。
天照。
オレと兄さんが使ってたらしい術。
だってこいつからは……。

「何であんたそんな……」



兄さんの気配がするんだ?










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