ようやくあの人の登場です。でも短いです。







とはどんなものかしら?10






一歩、
サスケとの距離を詰める。
今は閉じられている目は
本当はもう見えてるのかもしれない。

あと少し。
多分後ろから押されたら簡単に
キス出来てしまう距離。
完全にサスケのテリトリーに入ってる。

ほんの少しの迷い。





その時、
オレとサスケの間に
日常が割って入ってきた。

甲高い電子音が数度連続して鳴る。
玄関ベルが客の訪問を知らせた。

オレが反射的に立ち上がろうとしたら、

「…!」

ぐっと強い力で腕をつかまれた。

オレを見上げてくるサスケの目は
いつも通りの黒い瞳で

行くな、

とオレに言っていた。
すがるような瞳だった。


なのにオレは


「ナルトー!?いないのー!?」

玄関先から聞こえたのはサクラちゃんの声。
気が付けばオレは
サスケの手を振り切って
玄関へと走っていた。


オレはそれを後から
死ぬほど後悔することになる。


その時のオレは
いきなりのサスケの告白と
それに合わせたようなタイミングで
現れたサクラちゃんに
混乱してたんだと思う。

何が何でも
サスケを選ぶと決めてたのに
まだほんの少し残っていた
彼女に対する恋心が
そうさせたとかそんなんじゃなくて

真っ直ぐオレに向けてくるサスケの気持ちが
いたたまれなくて
恥ずかしくて
そんな情けない感情に負けてしまったオレは
この後サスケに
どんなことをされても
何を言われても
しかたなかったんだと思う。





◇◆◇






薄暗いじめじめした地下独特の空気。
様々な尋問を受け
ここに放り込まれてから
どのくらい時間が経ったかは分からなかったが
日に2回運ばれてくる食事が
これで6回目になることを
オレは空白の頭でぼんやり数えていた。

明かり取りの窓もない
今が夜なのか昼なのかも分からない空間。
ここに連れてこられた時

『ここは初代様が
対うちはに作られた特殊な結界牢だ。
お前がどんな術を使おうが
破ることは出来ん。
逃げようなんて思わんことだ』

牢守はそう言って去っていったが、

オレにはここを破ろうという気も
逃げようという気も全くなかった。

抜け忍は死罪。

知らない者はいないだろう。
里を裏切る忍は
仲間を裏切る忍は
最も罪が重いとされていた。

オレも遅かれ早かれ刑が処されるだろう。

ただオレには加重減免が認められるとかで
改悛を見せるなり赦免を求めるなりすれば
命だけでも取り留めるかもしれないと
現火影に言われた。

それでもオレは自分の胸の内を
語ろうとは思わなかったし
己の行動が非であるとも思わなかった。

すべて終わった。
仇をとったといえるかは分からないが
悔いはなかった。

後は残ったこの体を
どう終わらせるかだったが、
都合の良いことに木葉の暗部が
オレを拘束してくれた。
オレに抵抗の意思はなかった。



6度目の食事が手付かずで運ばれて行ってすぐ、
そいつは現れた。


「……サスケ」

うずまきナルト。
オレの親友
オレの仲間
最後の戦いの中で思い知った。

でも今は最も会いたくない存在。

昔からオレが作る壁を
乗り越えてくるヤツだった。


「サスケ」


今では唯一
オレが心動かされる相手。


だから
会いたくない。
言葉など交わしたくない。

なのに

「サスケ」

お前は届かないと分かってても
何度でもオレの名を呼ぶんだ。

「お前、何も食ってねぇって聞いた」

オレは必死な声で話しかけるナルトを見るでもなく
向いにある汚れた壁を見つめ続けていた。

逆算すると三日は食べてないことになる。
お節介な誰かがこいつに話したんだろう。

「何もしゃべらねぇって」

話す気なんてあるわけない。
誰も残されたオレの気持ちなんて
分かるわけもない。
誰も
お前も

分かって欲しいとも思わない。

「サスケ、お前……
死にたいのか?」

苦しそうなナルトの声。

死にたいわけじゃなかった。
何もする気がおこらないだけだ。
不思議なことに腹が減る気配もない。
ただ水だけは唇が渇く感触が我慢できず
濡らす程度には口に含んでいた。

「サスケ…こっち向けよ……」

ナルトが格子にすがりつく気配がする。
声が震えていた。

「そんな逃げは認めねぇ」

オレはオレのやりたいようにやるだけだ。
誰の許可もいらない。

「お前は……お前が
本当に後悔してる罪を
償わなきゃなんねぇ。
お前は生きなきゃなんねぇんだ…ッ」

ナルト。
お前は正しい。
多分、イタチもそれを願ってる。

でもそれはお前には夢があるから
イタチには希望があったから
言える言葉だ。

生きる意味があるから
お前は強いんだ。

今はお前のその強さが
わずらわしくて仕方ない。

「オレは火影になりてぇってずっと思ってきた。
今でも思ってる。すっげぇ遠いって分かってるけど
絶対なりたいって思ってる。
でも火影になるためにはやんなきゃなんねぇことが
オレにはいっぱいあるんだってばよ。
何年かかってもいい。
何十年かかってもいい。
オレは皆が笑って暮らせるような世界を作る」


オレの願う世界の中に、サスケ


「お前は当たり前にいるんだってばよ」

引くことのない気配。

「だからオレはオレのやりたいようにやる。
サスケもサスケのやりたいようにやればいい」

だから

「サスケが飯食うまで、オレも何も食わねぇ」


そう言って笑ったナルトとオレの根競べが始まった。










「あー、腹減ったってばよ」

ナルトが一方的に絶食宣言をしてから
1週間が経っていた。

たまに視界に入るナルトに
いつもの破棄はない。
それでも任務はこなしているらしい。
大戦後の混乱は当分続くだろう。
休みなんてあるわけない。

結果は見えていた。
早く諦めればいい。




毎日、毎日ナルトはオレに会いに来た。
言葉を交わすこともない。
目を合わすこともない。
ただ一方的にナルトが話しかける。
応える声はもちろんない。

何がしたいんだこいつは。
うっとおしい。
イラつく。
もう来るなと言いたかった。

来たら来たでムカついて。
いない時はいつ来るかとイラついた。
他の誰がいるよりも
良くも悪くも動く感情。

日に日に苛立ちは大きくなる。


ナルトが来ない日が4日続いた。






「サスケ。久しぶりってばよ」

ナルトが現れたと同時に漂った血臭。
ギクリとした。

「ちょっと……ドジっちまった」

ドサリと力なく座り込む音。
濃厚な血の匂い。
荒い息遣い。

でもオレの顔はまるで
金縛りにでもあったみたいに
動かすことができなかった。

「なー…サスケ」

つらいならしゃべらなければいい。
だからウスラトンカチだってんだ。

「一楽行きてぇ……」

そう言って笑う声。
聞きたくなくても入ってくる。


「お前と…」

力なくつぶやくような声。
それからナルトは話さなくなった。





オレはオレという存在を許せない。
それにすぐに消える命だ。

それでもお前が馬鹿みたいに
執着するってんだったら

お前の命より
お前の夢より

このいつ絶たれるかも分からない命が
大事だっていうんなら



許される限り






「お前のそばにいてやる……」

ドサリと倒れる音がした。

オレはまだ下げられずに残っていた食事に
手を付け始めた。
口にした瞬間吐き気が込み上げたが、
無理矢理咀嚼して飲み込んだ。

せり上がって来る衝動は
今まで固形物を食してなかったための
体の拒絶なのか
今まで冷め切ってた心に
急に熱が灯った感情の
発露なのか
どっちかは分からなかった。

何度も途中で手を止めながら
それでも最後には水で流し込んで
全て食べ切った。

結局は半分ほど吐いてしまったけれど、
これで奴との根競べは終わりだ。

本気なわけがない。
正気の沙汰とは思えない。
でもこれが嘘じゃないとしたら。
本当の馬鹿だ。

「ナルト……」



初めてこの結界が



邪魔だと思った。













サスケ→ナルトになりました






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