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とはどんなものかしら?11






「良かったの?ナルト」

と、サクラちゃんが怪訝な顔してオレに言った。

あの後サクラちゃんを玄関に迎え入れてすぐ、
サスケがオレとサクラちゃんの横を
何も言わず走って家を出て行った。

「……うん」

一応サクラちゃんには頷いておいたけど、
オレには良かったのか良くなかったのかは分からなかった。
でも、サスケを物凄く傷付けただろうことは分かってた。

苦しいって言ってた。
つらいとも言ってた。
そんなサスケの手を振り払ってしまったんだ。

燃えるような目だった。
追い詰められて求められて
本当にいたたまれなかった。
上手い言葉もかけてやれなかった。

何度も自分が気持ち悪いって言ってた。
何で言ってやれなかったんだろう。
必死になってすがるみたいに足掻くみたいに
オレだけ見てて泣きそうな顔して

でもそんなサスケをオレは
口を開くことも目を離すこともできないくらい
本当に本当に心からキレイだと思ってたんだ。

気持ち悪いなんて思うわけない。
誰かをそんな一生懸命想えるサスケの心は
本当にキレイな魂をしていると思ったんだ。

なのにオレは今
そんなサスケを追いかけることもしていない。

「ごめん。サクラちゃん。
オレやっぱりサスケ追いかけなきゃ」

そのまま出て行こうとしたオレをサクラちゃんの手が引き止めた。

「そのサスケ君の件なの。
手短に話すから少しだけ時間頂戴」

真剣なサクラちゃんの瞳。
そんな顔してサスケの話って……。

「サスケ君。万華鏡写輪眼、開眼したわよね?
上層部が動き出したみたいなの」

はっとしてオレはサクラちゃんの顔を見た。

「正式に話はあると思うけど先に言っておくわ」

サスケ君の目。
場合によっては要求されるかもしれない。

「どうゆう…ことだってば?」

その可能性を考えたことはあった。

本来ならサスケの刑は死罪だ。
本人の弁明と周囲の嘆願で記憶の削除という結果になった。
その時、サスケの目をどうするかが問題視されたけど、
そこは綱出のばあちゃんが抑えてくれたはずだった。
写輪眼覚醒状態を隠すための角膜シールドと
精神、身体共にの定期的な検査を条件として。

「危険視されたの。
もし、今のまま忍を目指すんだったら
眼球の摘出もしくは義眼への転換。
それが嫌なら忍を断念するか」

ダンッ、と壁に拳を叩きつけた。

「ナルト…」
「ばあちゃんは…綱手のばあちゃんは何て?」
「綱手様はもちろん現状維持の方向よ」
「そっか……」
「後、暗部がサスケ君を引き取りたいって」
「!」

サクラちゃんが思いつめたような顔で見上げてきた。
オレは叫び出したいのを無理矢理押さえつけて

「サクラちゃん、オレ。
サスケ、探してくる」

そう言って家を飛び出した。













ナルトが好きだった。
初めて彼をちゃんと認識した時から
惹かれて惹かれてやまない存在だった。

いつかは溢れてこの自分でもどうしようもない気持ちを
ぶつけてしまうだろうとは思っていた。
できたらナルトの気持ちを測った上で伝えたかったけれど、
到底我慢できるものじゃなかった。

オレの目に封印されてる男の存在が何にもおいて脅威だった。
ナルトが求めているのは”サスケ”
それがここに在るとしたら。


こんな眼いらない。


さっきナルトに言った言葉を思い出す。
ナルトは冗談にしたがってたけどオレは本気だった。

それは目の前の男が提示した言葉を耳にして
その思いはさらに強まった。



家を飛び出してすぐ仮面をかぶった男が二人、
オレに話があると言って来た。
豹と梟の仮面。暗部の者だった。
ナルトの言葉から暗部は敵だと判断していたが、
何故今だにオレが額当てをすることに
許可がおりないのか知りたくはないか?
という豹の仮面を付けた男の言葉に心が揺れた。

まんまとここまで連れてこられたオレは、
今後火影より下されるだろう命を
目の前にいる『根』のリーダーだという男から聞いて
欲求を実行することを強く意識した。

この眼は邪魔でしかない。

オレが忍としてナルトのそばにいることを妨げる存在。



「うちはサスケ。君はこの暗部でしか生きていけない人間だ。
我々は君を歓迎する。
今のままだと君のその目は君を不幸にするだろう。
だが君たち一族のことを私は誰よりも知っている。
その目の有効な使い方を君に教えることもできるはずだ」

男は抑揚のない声でそう言った。

「誰よりも知っているというのなら…」

父さんが言ってた。
万華鏡写輪眼は特別な条件下でのみ開眼すると。

「万華鏡写輪眼の開眼条件くらい知ってるだろう?」

男は哀れむような笑みを見せた。
それは条件そのものに対して苦笑しているようにも
男に対するオレの侮りを嘲笑しているようにも見えた。

「勿論」

そう短く了承した後、男は落ち着いた様子で話し始めた。




「返事は急がないが火影が正式に命を下す前にもらえると有難い」

オレはそれに頷いたが、暗部に入隊する気はなかった。
それよりもオレは新たに知った事実に激しく動揺していた。

男の言ったことが真実なら
一族を誇らしく思っていた矜持が
崩されたも同然だった。
この呪われた目が厭わしく思えてならない。

そしてオレの願いは、オレとしてナルトと共にいることだ。

あの時から煩わしいとさえ思っていたこの目と引き換えに
忍の道を目指せるのなら何を迷うことがあるだろう。

気がつけばオレは男が去った後、
己の右目に指を這わせていた。

眼球に直接指が触れる刺激に涙がにじむ。
今すぐ取り出してやりたい。
最強の瞳術を発動させる眼だとしても
誰がどれほどこの眼を欲していようと
オレとナルトの道を別つ存在なのだとしたら

オレにとっては邪魔でしかないはずなんだ。

一瞬の迷いが
眼球に爪をたててぐっと力を込めようとしていた指を
思い止まらせた。

その時、
ずるりと
眼球の上を何かがずれる感触がして。
その気持ち悪い違和感をオレは咄嗟に引き剥がしていた。
「!」
途端、眼球に激痛が走る。
強固に張り付いていた何かが
無理矢理剥がれるような感覚だった。

「何だよ…これ……」

手のひらに乗ったちいさな残骸。

ドクンと心臓が鳴った。
警鐘のように忙しなく。

あるひとつの可能性が胸を締めて
それ以外考えつかなかった。

何故?
何のために?

鳴り止まない警鐘。
暴力のような強引さで入り込んでくる思考。

嘘だ。
きっと何かの間違いだ。
開眼の条件。
そんなものは関係ない。

右目から止め処なく流れてくる涙を乱暴に拭って
この眼球に装着されていた何らかの人工物を突き止める為に
オレはある人の元へと向かった。






木の葉病院。
ここにいなければ検死室、検査室。
火影執務室が大勢だがそこは避けたかった。
迷いなく彼女がいるだろう部屋へと入り込んだ。

「いないか……」

オレは片目を手で押さえたまま扉を閉めて中に入る。
ここは医療部隊の隊長を勤めるシズネさんの執務室だ。

オレは手に握ったままだったそれを見下ろした。
赤い血がついた黒い塊。
柔らかかった小さなそれは今は乾いて硬くなっていた。
視力補正用もしくは角膜矯正用レンズ。

でもこの場合どちらも当てはまらない。
何らかの目的のため虹彩部分の外観上の色を変えるためのレンズ。
しかも言われなければ分からないような半永久的な医療機器。

オレの目を黒く見せる目的の。

なら、
オレの目の色は今

何色なんだ?

女性らしくデスクの上に置いてあった鏡を手に取る。

ただの、視力補正。
ただの、角膜矯正。

それならいい。

でももし、
もしもこの眼が赤かったら。
例えばカカシ先生のように
ずっと赤いままだったとしたら。


誰かの目が移植されているという証拠。

誰かの

それは、万華鏡写輪眼の開眼者。
天照を使う術者。
夢の世界で一際強く感じる気配。
眼球をつかみ出そうとして

躊躇した理由。

「兄さん……」



鏡に映し出されたオレの顔は



酷く苦しげに歪んでいて



傷つけたオレの右の目は



血のような



真っ赤な色をしていた。













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