避けては通れませんでした……







とはどんなものかしら?12






ほんの少しの間だと思ってたんだ。
サスケを追いかけて探して
でも見つからなかった。

ひとしきり走り回って人に聞いたりして
どのくらいそうしてたのか、
うだるような夏の午後。
流れる汗をぬぐってサスケを探した。
ふと空が暗くなって水の匂いがしたと思っていたら
遠くで神鳴りが鳴って激しい雨が降ってきた。

サクラちゃんの話を聞いた時から嫌な予感がしてた。
この雨も不安にさせる原因だ。

「サスケ……」

どしゃぶりの中走りながら、
もしかしたらこの雨だしサスケも帰ってるかもしれない。
そう思ってオレは一度家に戻ることにした。



びしょ濡れになって玄関をくぐる。
扉を閉めて顔をあげた時
ピカっと空が光って薄暗い廊下と
そこにたたずんでいた人影を一瞬照らした。

「サスケ…」
お前帰ってたんだな

そう言おうとしたオレの言葉は全て口に出すことは出来ず
つかみかかってきたサスケに引き倒されていた。

「…って!何しやがんだ、サスケ!」

サスケも雨に降られたのかずぶ濡れだった。
髪から滴る雫がオレの上に落ちる。

「ナルト、答えろ」

今まで聞いたことないサスケの押し殺したような低い声。
オレは打ち付けた痛みも忘れて
胸倉をつかんで馬乗りになるサスケの顔を見上げた。

「!」

明かりをつけてなくても分かる瞳の色。
サスケの右目は鮮やかな赤い色をしていた。

「お前…目が……」
「知ってたんだな?」

オレの心臓がどくどくと早鐘を打ち出した。
サスケのどうしようもない怒りが
オレに向かっているのが分かる。

「ナルト、オレの目の紋様を言え」
「サスケ……」
「オレの右目。今はただの写輪眼じゃないはずだ」

サスケは知ってるんだ。
イタチの万華鏡写輪眼の紋様を。

「六芒星に……三刃手裏剣の紋様だってばよ」

オレの言葉を聞いて
サスケの顔が苦しそうに歪んだ。
それを隠すように右手で顔を覆う。

「く…ッ」

呻くような声がしてサスケの体が小刻みに震え出した。
荒い息。
サスケの中で怒りが荒れ狂っているのがオレには分かった。

「何で…!何で兄さんの目がここにあるんだ!?」
「それは、イタチが望んだからだ…!」
「そんな理由で納得なんて出来なるわけないだろ!」
本当のこと言えナルト!」

木ノ葉の掟。
オレが九尾を封印された時と同じように
サスケの事に関しては里中に閉口令が敷かれている。
オレはサスケが知りたい答えを言うことができない。
里から用意された言葉しか持ってなかった。

重い病を患っていたイタチは
死ぬ前に失明直前の弟に眼を譲った。

それが里が用意していたサスケが自分の目が
イタチの目だと知った時の周囲の対処。

「言え…ねぇ…」

でもオレはその嘘をどうしても言いたくなかった。
だからと言って本当のことも言えるはずがなかったのだけれど。

そんな答えで納得できるわけないサスケが
まさに燃えるような目でオレに詰め寄った。

「言えねぇってことは知ってるってことだよな?」

オレはそれに頷いた。

「でも…言えねぇ…」

どんな思いでその両目をイタチがサスケに託したのか
どんな思いでその両目をサスケがイタチから受け取ったのか
それを思うと真実以外を言うことなんて出来るわけない。

「ナルト、今オレを怒らせるな…
じゃないと……あんたに何するか分からない」

脅しのようなサスケの言葉。
見上げたサスケの瞳孔が開いている。
浅く早い呼吸。
激しい混乱がサスケを襲っていた。

「万華鏡写輪眼の開眼条件…
最も親しい者を…その手で殺すこと……」

オレはサスケの次の言葉が分かっていながら
押しかかる体の下から逃げ出すことも
今は赤と黒の瞳から眼を反らすことも出来なかった。

「オレは…誰を殺して……開眼した?」
「言えな…ッ」

その瞬間つかまれていた胸倉がぐっと押さえつけられた。
苦しくて息がつまる。

「あんたはオレに嘘つくのが嫌なんだよね?
だから言えないんだ」

サスケの顔が寄せられた。
迫る瞳が狂おしいほどオレだけを見ていた。

「う…ぐ……ッ」
「だったら……言い方を変える……」

そっと外されるサスケの手。
優しいとさえ言えるくらいの声音で。



オレが兄さんを



殺したんだよね?




ひゅっと、空気を吸い込んだ喉がなった。
硬くなる体。
サスケが気付かないわけない。
こんなのサスケの言葉を肯定してるも同じだ。

オレを見下ろす
サスケの冷淡な笑み。

一族惨殺の記憶がないサスケは
『最も親しい人』と言われれば
何を疑うこともなくイタチを選ぶんだと…
にじむ視界でサスケを見上げながら
オレはそう思った。

「オレは兄さんを殺して」
「……サスケ」
「兄さんの目までオレは奪って」
「違う…そうじゃないんだ……ッ」
「万華鏡写輪眼なんてただの罪の証だって」
「サスケ…お前は悪くない……ッ」
「大罪を犯したからオレは」

サスケはそこで言葉を切ると
じっとオレを見つめて

「今さら…あんたを
めちゃくちゃに犯すくらい……」

オレの目蓋の上にサスケの涙が落ちたと思ったら
息も止まるような口付けをされた。











抵抗もした。
情けないけど逃げようとも。
でも本気で
例えば殴りつけてでもサスケを止めようとは思わなかった。

涙を流しながら全身ですがってきたサスケ。
酷いこと言われたし、
我を忘れて求めてくるサスケの
手加減のない行為に負担は大きかった。

途中本気で抵抗した時のサスケの激昂は凄まじく
腕の一本や二本折られても
仕方ないんじゃないかと思うほどだった。

ただ知識のないオレでも
この行為が本当の意味での
交わりじゃないことはなんとなく分かった。
多分、サスケにも男同士での性行為ってのが
どんなものなのかなんて分かってなかったんだと思う。

それでも興奮して上気した素肌の体を擦り付け合うような性的な行為は
まともにキスもしたことのなかったオレには十分刺激的なことで
ここが玄関先なんてありえない場所であるにもかかわらず
サスケに触れられる度ひきりなしに恥ずかしい声を上げていたように思う。

何度も快感に登りつめては果ててを繰り返して
雨でぐしょぐしょに濡れてた服も
何で濡れてるのかももう分からないくらいどろどろになって
オレの顔もサスケの顔も手も足も髪までべとべとになって
それこそ精も根も尽き果てた頃。

サスケが
もう何も聞かないからって。
ナルトを追い詰めるようなことは
もう言わないからって
ぐちゃぐちゃになってるオレを抱きしめながら言った。

でも


その代わりオレにナルトを頂戴


って
疲れ果ててもう嫌だと泣いて懇願するオレに
サスケは口付けながらそう要求した。


それにオレは意識を朦朧とさせながら
何度もサスケの言われるままに
頷いていた。













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