どう転ぼうがハッピーエンドを目指します







とはどんなものかしら?13






「……ごめん」

あれからサスケは呆然と力なく座り込んでたオレの手を引いて
風呂場に連れて行った。
言葉少なくオレと自分の体を洗って
床や壁に打ち付けて変色しかかった跡を見つけては
大丈夫?という労りの言葉と
ごめんという謝罪の言葉をかけてきた。

火照る体をタオルで包んで
オレの体を拭こうとするサスケの手を止めた。
自分でするからってタオルを受け取って
お前も拭けよって終わって初めてサスケの顔を見た。
表情の抜け落ちた顔。
もともと普段は感情を表に出す方じゃなかった。
でも一度感情に火が付くと燃え尽くすまで収まらない。
そんな所は“サスケ“と一緒だと思った。

「ごめん、ナルト」

繰り返されるサスケの謝罪。

「いいってばよ」
「でも嫌がってた」
「……うん」
「オレ無理矢理……」
「最初はな」

でも最後はもう無理矢理じゃなかった。

その言葉は口には出せなかったけど
サスケには分かったみたいで

「許してくれる?」

まだ濡れたままの頭をオレの肩口にすり寄せて
サスケはオレをゆっくり抱きしめてきた。

オレはサスケのその問いに頷く。
許すも許さないもサスケに大事なこと話せないでいるのはオレだ。
苦しんで辛い気持ち
本当にどうしようもなくて
ぶつける先がオレしかなかった。
サスケは怒る権利がある。
オレは今は受け止めることしか出来ないだけで。

「でもオレまた同じこと
するかもしれない」
「同じこと?」
「今日みたいなこと
ナルトが嫌がっても逃げようとしても
最後には許してくれるって気持ちにつけこんで
好きにするかもしれない」

眈々と、感情のこもらない声音で言うサスケ。
そのかわり抱きしめる腕の強さがどんどん強くなって
その言葉が本気なんだって分かった。

「それでもオレはここにいていい?」

さっきまでの激情が嘘みたいな
力ないサスケの声。

「オレは何があっても
何が起こっても」

ナルトのそばにいたい

まるで壊れたレコードみたいに
同じことを繰り返すサスケ。

そばにいて
ここにいて
そばにいたい
ここにいたい
でもひとりはイヤ
一緒がいい

「サスケ」

痛いくらいにオレを抱きしめるサスケの腕は
何があっても離さないとでもいうように力が込められて
それがそのままサスケのオレに対する執着をあらわすようだった。
言葉と体全部でオレが必要なんだってサスケに言われて
オレは降ろしたままだった腕をようやく上げて
まだ熱く火照る親友だった男の体を抱きしめ返した。




あれからサスケの部屋のベッドの上で
オレたちはまたキスをした。
それは
慰めるような
労わるような
優しいもので

髪を梳き
頬をすり寄せ
鼓動を確かめ
手を握り合わせる
最後に額に口付けを落としたサスケが
オレの顔の両脇に腕を突っ張って
覗き込んできた。
赤い目がキレイだと思った。

「この目は隠しておいた方がいい?」
「うん」
「こうやってナルトに触れられるんだったら
もう何も誰にも聞かない」
「でもいつかはちゃんと話すから」
「いつ?」
「オレが火影になったらかな」
「それって案外すぐかもしれない」

低くなる声。
もういっそのこと話さないでと言われたようで

「そんな簡単にはなれねぇよ。
その前にオレはまだやんなきゃなんねぇことあるからさ。
でも絶対ちゃんと話すってばよ」
「何をしなきゃなんないんだよ?」
「それもまだ言えねぇ」
「そればっかりだ」
「ごめんな」
「いい。ナルトがオレから離れないでいてくれたら
オレがどうなっても
里がどうなっても」

世界がどう変わっても
オレはナルトがいてくれたらそれでいい。

最後の方の言葉はオレの口の中で呟かれた。
外で降り続ける雨の音が
互いの舌を擦り合わせ
唾液をかき混ぜる音を消す。
頭の中だけで響くサスケとオレのたてる水音が
次第に熱を帯びてきて
ただ口と舌を触れ合わせるだけの行為が
簡単に次に続く濃厚な交わりの始まりに繋がることを知った。
知らないうちに気持ちが高ぶってくる。

「…サスケ、待てって」

薄い部屋着の裾からサスケの手が入ってきて
オレは静止の声を上げた。

「待てない」

無遠慮にめくり上げた服から覗く肌に
口付けようとするサスケを押し退ける。

「いい加減にしろってばよ…!」

それでも止まらないサスケの手。

「サスケッ!」

息は上がっていたけど強い口調で名前を呼んだところで
ようやくサスケが顔を上げた。

「何で止めんの」
「もう十分…だろ」
「十分なんかじゃない。全然足りない」
「足りねぇってじゃあどうやったらサスケ
満足するんだってばよ」

上げてた顔を伏せたサスケが
オレの胸元にゆっくり頭をのせた。

「……怖いんだ」

何がとは聞けなかった。
今、サスケは何も信じられないでいる。
それでもオレだけは信じようと
オレっていう存在は信じようとしてる。
自分を取り巻く環境が全部嘘でできてるかもしれない。
それ分かってて
サスケはオレを選んでるんだ。

「そばにいるから」
「分かってる」
「それでも不安?」
「どうやったらこの不安が消えんのか分からない」

サスケの抱える不安。
オレにも覚えがある。
まだこの腹ん中に何がいるのか知らなくて
周りの人間の冷たい反応に毎日傷付いてた頃。
もしかしたらオレは
生まれてきちゃいけない人間だったのかもしれないって。
誰にも必要とされなくて
そこに在るだけでも許されない存在なんだって
思ってた時期があった。
あの頃の自分は幼かったから
この手で何かをしたとは思えなかったけど
毎日が不安で何かに突き動かされるようにして生きてた。

「オレを好きにしたらサスケは満足するのか?」

さっきサスケが言った言葉でオレは問いかける。
それに首を横に振ったサスケが
さらにしがみつくようにオレの胸元に額を押し付けてきた。

「ナルトの全部がオレのものになんないと満足なんかしない」
「んなことねぇよ。オレがサスケのもんになったとしても
きっとサスケは不安なまんまなんだ」

ごめんな、サスケ。
オレはオレが思うことをやって
でもそれが正しいのか間違ってるのかなんて分からないけれど
それがオレにできる最善なんだ。

「オレの願いはサスケ。
火影になって皆に認められることだった」
「違うのか?」

オレはそれに頷いて
胸の上にのるサスケの湿った髪に指を入れて
あやすように撫でた。
胸に重みが増したのが分かった。

「今は皆に認められて火影になりてぇって思ってる」
「ナルトはもう認められてるよ」
「そっかな」
「そうだよ」
「うん。でもその皆ってのにはオレも入っててさ。
オレがまだ認めらんねぇ」

仲間ひとり
家族ひとり
救えねぇヤツが

「火影になるなんてオレは認めねぇってばよ」

救えなかった。
命にかえても守りたかった。
あんな結界ぶっ壊して
それでどんな罰を受けようと
潔く受け入れるつもりだった。
なのに
守れなかった。

だから今度こそは
守らなければならない
その命を
その魂を
幸せに
それこそがオレの願い
オレの幸せ

「今度こそ……」




お前を守るよ





そう言葉に出して
心に誓った。





その時のオレは目の前のサスケという存在だけが大事で
とにかくサスケを大切に守って
ただひたすらに彼の幸せを願って
そうすることで前に進めるんだって思ってた。

だからサスケの言う
好きだって言葉も
その意味も
ただ知ることができたってだけで
理解しようとは思ってなかったのかもしれない。
オレには理解出来なかったんだ。





それでもオレはある覚悟を決めて



神鳴もやんで雨の音だけがする狭い部屋の中



ただ相手のぬくもりと鼓動を感じながら



胸にのるサスケの頭を抱き寄せた。













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