ネジ兄さんは悪くないんです(前話より2年経過)







とはどんなものかしら?14






その話を聞いた時
オレの中に喜びしかあっちゃいけなかった。
笑顔で頷いて
ありがとうって自分のことみたいに

悲しいなんてあるわけない
苦しいなんてあるわけない

サスケを忍に戻す。
名家である日向が後ろ盾になれば
それも叶うだろうし
うちはの血を繋げるんだ。




来月大名殿で行われる火影就任会議を前に大規模な人事改正があった。
同期のメンバーほとんどが上忍になって何らかの名のある役職につき
サクラちゃんは医療部隊副隊長に
サイは暗部養成部門隊長に
そしてネジは火影護衛部隊に所属となったと同時に
日向の正当な後継者になった。
ずっと続いていた暗い日向のしきたりは廃止されて
”籠の中の鳥”で苦しむ分家は解放されたんだ。

これから時代は変わって行く。
その一片なのかもしれないけれど
と前置きして
ネジはオレのおかげだと言った。
それに重ねて

日向宗家の次女、日向ハナビ本人の希望もあって
サスケへの見合い話が上がっていると。
それにオレも賛成なんだと
ネジは笑って言った。

その時オレの心に思い浮かんだのは
肌を重ねて抱き込んでくる腕だったり
甘ったるくてでも掠れて色気の増した声だったり
冷たい無表情を熱に崩して求めてくる
サスケの顔だった。

あの日からオレたちは
本当にたまにだけれど
どうしようもなく
気持ちが高ぶった時
お互いの熱を
交換し合って
求め合って
与え合った。

どこかで間違ってるような気がしてたけど
オレにサスケを拒めるはずなんてなくて
ずるずると
そんな関係がもうずっと続いている。

一度相手の熱を知ってしまうと
最初の嫌悪や
羞恥は薄らいで
反対に気持ち良さや
サスケの体温の心地良さを
知ってしまった体は
長期任務で離れていたりすると
焦がれることさえあった。

そんな関係がもう二年くらい続いてる。
不安定に過ぎる毎日をただ見送って。

でもそのサスケとの関係を
心から望んでたわけじゃなかったオレは
長く一緒にいる苦い気持ちを離れることで
紛らわせてたとこもあった。
ほとんどの任務を国外でこなすようにしてたんだ。
それはオレのやりたいことに必要なことでもあって
でもサスケとの距離を簡単に置ける
都合の良いものでもあった。

そんな時
力になりたいと言った彼の言葉に
オレもだって頷いて
心からの笑顔を
ネジには見せることが出来たと思う。







「何考えてんだよ、ナルト」

任務から帰ってきて
一息つく間もなく
攫うようにして風呂場に引きずられて
まだドロや血のついた体に
随分筋肉が落ちて細くなったサスケの腕が巻きついてきた。

あの日、オレはサスケに忍になることを
待って欲しいと言った。
それにサスケは頷いて
今はただ
この家でオレを待っている。

二週間ぶりの比較的早い帰還。
それでもサスケは待ち遠しかったんだと
何度も頬にまぶたにと
顔中に唇を落としてきて
それを黙って受けてたらそう言われた。

サスケはオレの中にある罪悪に気づいてる。
何気ないやり取りにそう思うことがたまにあった。

「疲れたなぁって思ってただけだってばよ」
「今回の任務は砂の国だっけ」
「うん。我愛羅にも会って来た」
「それも任務?」

サスケの声が低くなる。
ご機嫌が斜めになったのを感じて
オレはムッとした。

「友達に会いに行って何が悪いんだってばよ」
「悪いなんて言ってない。
でも嫌な気分になるのは仕方ないだろ」
「……」
「何……?」
「それってば嫉妬?」
「そうだけど」

大真面目に答えるサスケにオレは脱力した。
今までサスケが撒き散らす嫉妬の対象は様々だったけど
こうやって肌を合わせるような関係になって
それで嫉妬してるんだって言われれば
その相手とオレが
こうゆうことしてるかもしれないとか
そこまで考えてなくても
そんな風な対象として入ってしまってるって
言われてる気がして
オレは我愛羅に心の中で深く深く謝罪した。

「オレがサスケ以外とこんなこと
してるかもって?」
「違うのかよ」
「お前今度我愛羅に会ったら謝れ」
「何でオレが」
「我愛羅に対して
すっげぇ失礼なこと言ったからだってばよ」
「そんなことない。
……もう黙ってナルト」

そう言ってサスケはオレの首筋に噛み付いてきた。

裸にむかれてたオレと違って
サスケは部屋着をきたままだ。
後ろから抱き込むように体を洗われて
背中に濡れた布の感触と
サスケの歯が肌に食い込む感触。
前に回された手が不埒な動きをし始めて
抑えつけてた熱が一気に上がるのが分かった。

「もう…服脱げよサスケ」

熱い息が言葉に交じる。
我慢出来なくなったオレは
後ろを振り向いて
濡れて肌に張り付いてる
サスケの服の合わせを掴んだ。

前に
一緒に入るんなら脱げよ
って言ったことはあったけど
それにサスケは

『オレ脱いだら絶対するけど』
って
『でもナルトは風呂場ですんのはイヤがるだろ』

響くから

とか
まるでオレのためって言ってるみたいに
でも本当にオレのこと考えてんだったら
風呂くらいゆっくり入らせろと
その時は返したんだけど

でももう今は
その理性を繋げる薄い一枚くらいじゃ
どうしようもないくらい
サスケとの行為には慣れてしまって

例えばサスケの
熱い視線が肌を走れば
平坦な声が濡れた響きを含めば
もうその手を払いのけるには
とてつもない努力が必要だった。

自分から距離を置きながら
でも実際
その距離に消耗してたのは
オレの方なのかもしれない。

でももうこんな感情はなくなる。

原因そのものが
目の前から去ってしまえば
こんな
今度こそはと
挑んでは打ち砕かれる
サスケに弱い自分を見なくて済むんだ。

何年後かなんて分からない。
でもきっとサスケは
オレの選択に感謝する日がくる。

お前を戻す。
サスケが幸せだった頃に近いカタチまで
時間を戻すように完璧にはいかないけど

大切で守るべき家族持って
なりたいって言ってた警務部隊長なって
オレとは親友とか仲間とかそんな関係に戻って

それが叶えば
サスケの幸せそうな顔を見れたら
オレは何を思い残すことなく
火影になって
お前が守る家族ごと
里を守っていくことが出来る。

「何、考えてんだよ」

またサスケがそう言った。
オレは考えてたこととは違う
今日、任務報告に行った時
火影に告げられたことを話した。

「明後日の火影就任会議で
オレを火の国の大名たちにお披露目するんだって」

次期火影候補として

「ナルト、もう火影になんの?」

熱を持って動いていたサスケの手が止まる。

「まだ分かんねぇ。
そこで反対されるかもしんねぇし。
それに……」
「うん」
「まだなれねぇ」
「まだって」

サスケが幸せになるまでは

「オレ、十分幸せだって思ってる」
「だといいけど」
「本当だって
ナルトがここにいる時は
一日が過ぎるのが
もったいないって思うくらい」

オレは幸せ

そう言ってサスケはオレに口付けた。






本当はこの時
オレもだって
言えたら良かった。

誰かに必要とされる幸せ
待っていてくれる人がいる幸せ

でもこれは

裏切りなのかもしれないと苦しむ心
あの幼かった日々を上書きされていく錯覚


そんな幸せで



でも切なさと隣り合わせだった



サスケと過ごす日々も



もうすぐ終わってしまう



そんな予感がした。













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