実は全力で逃げてるナルト







とはどんなものかしら?16






火影就任会議も終わって三日が経っていた。
サスケに話さないといけないと思ってたけど、
あっさり話が付くとも思えなくてオレはタイミングを計っていた。

居間として使っている和室の端っこに
用意した荷物を固めて置いて、
風呂に入っているサスケを待つ。

明日からまた長期任務だ。
いつもより多く感じる荷物を眺めながら
どこにも後悔がないことを確かめる。

落ち着け
と数度自分に言い聞かせた。

まるでこれじゃ別れ話を切り出すみたいだ
そう思って
でも案外それも
間違ってないなと思い直す。

その時
バタンと風呂場の扉が開閉する音がした。
少しして肩にタオルをかけたサスケが部屋に入ってくる。
サスケには風呂に入る前に話があると伝えてあった。
今話せよって言うサスケを
後々のことを考えて無理やり先に風呂に入れた。

だからか
オレの近くに座ったサスケの顔は
表情も硬くて
どこか警戒しているようだった。

「話って何?ナルト」
「その前に髪拭けってばよ。
ポタポタ落ちてる」

簡単にしか拭かずに出てきたようで
サスケの黒い髪の先から雫が落ちていた。

「そんなこと
どうだっていい」

話あるとか
あらたまって

「嫌な予感しかしない。
風呂入ってる間…」

不安で
どうにかなりそうだった。

「だから早く話して」

いつもの余裕をなくしたみたいに
サスケが真っ直ぐこっちを見てくる。

それに応えるように
オレは握りしめられて
白くなってる
サスケの手を取った。

そのまま腕に手を当てる。

「随分細くなっちまったな」

必要最低限の筋肉しかついてない。
こんな細くなったサスケ腕を
オレは過去にも知っていた。

あの時は触れることも
できなかったけど。

可哀相に……

どうしてもそう思ってしまうのは
忍が力を失うことは
鳥が空を飛べないくらい
つらいことだと
思ってしまうからだ。

「ナルト」

先を促すようにサスケが名前を呼ぶ。
焦ってるみたいな
必死な声だった。

「お前を忍に戻す」
「……え?」
「まずは目の封印を解くってばよ」
「何で今更……」
「今更なんかじゃねぇ。
ずっと考えてた。
どうやったらお前が忍に戻れるか。
まだちょっと時間かかるかもしんねぇけど」

まずは婚約って話しになると思う。
それから正式に発表されるまでに
忍としての力を取り戻して
タイミングを見て忍復帰の嘆願をする。
日向一族の後押しがあれば
きっと上層部も文句は言えないだろうし。
その辺りの段取りは自分より
日向に任せた方がいいかもしれない。

本当はオレが火影なってから
力になりたかったけど
まだ火影にはなれない。

火影就任会議の時にばあちゃんも言ったけど
オレが何も言わなかったら
すぐにでもなれてたかもしれない。
でもまだオレは
自由を奪われるわけにはいかなかった。
オレが動かないと駄目なんだ。

「話しってそれだけ?」

もちろんまだある。
どっちかというと
これから話す方が本題だ。

サスケの言葉に首を振って
オレはできるだけゆっくり問いかけた。

「なぁ、サスケはオレたちの関係
どう思う?」
「幸せだって言ってる
……いつも…」
「……うん。
この前も言ってたな」
「それが何だって言うんだよ。
ナルトはそうじゃないって?」

サスケの声に怒気がまじる。
息苦しいほど
今この部屋の雰囲気は
重くて
サスケは怖いのかもしれない
そう思った。

オレと一緒で。

「……オレも
幸せだった」

自然と笑みが浮かんだのは
本当にサスケと家族みたいに暮せて
幸せだったからだ。
最近は思うところがあって
任務が終わって家に帰るのが
つらかった。

でも
嬉しい気持ちの方が
大きかったんだ。

それを見てたサスケが
つらいみたいに顔を歪めた。

「何で…過去形にすんだよ…」

顔を伏せてサスケが言う。

「だって明日からはまた任務だし
帰って来る頃には
今とは違うだろうからさ」

きっとこの歪んだ関係は
変わって
新しく
正しい道へと
繋がる。

ひとつ
大きく息吸い込んだ。
ゆっくり吐いて

「サスケ。
もうこんな関係
やめようってばよ」

俯いたまま
顔を上げないサスケ。

「元に、戻ろう」
「本気で言ってんの…?」
「ああ」
「嫌だって言ったら?」
「言っても…終わらせる」

じっと動かなかったサスケが
身震いするように
体を戦かせた。

「結局…っ
オレに選択肢はないわけ!?
ナルト一人で決めて
ナルト一人で終わらせるって!?
この関係はナルトの意思だけで
続いてたって言うのかよ!」
「初めたのはサスケだ。
あの時オレは
サスケにしたがったってばよ」
「だから今度はナルトにしたがえって!?」

悲鳴のようなサスケの声だった。

「ナルト、勝手だ…!」
「分かってる…」
「こんなに好きなのに…!」
「…ごめん」
「こんな…っ
ずっと好きだった!!
今更、諦めるなんて
出来るわけないだろ!」

顔を上げたサスケの目には涙がにじんでいた。

「オレのこと嫌いになった?」
「…違うってばよ」
「誰か好きな人が出来た?」
「……」

ゆるく首を振って否定する。

じゃあ、なんで……
って

理由を。

真っ直ぐ目を合わせてくるサスケ

オレも逸らすことは出来なかった。

「日向から見合い話が来てる。サスケに」

サスケの目が大きく開かれる。
でもそれはすぐに険しい表情になった。

「だから!?
たったそんな理由でオレから離れるって!?」

真っ正面から向けられた怒気。

「人に言われてはいそうですかって
ナルトは納得するのかよ!
縁談なんて知らない!
日向が何だってんだよ!!」
「大事なことだ!!」

サスケの言葉を聞いて
オレはとっさに怒鳴り返していた。

「日向が後ろ盾になれば
忍の道をまた目指すことが出来る!
それに家族が出来るんだ!
ニセモノでもごっこでもねぇ
本当の家族が!!
オレはこれから里を変える!
お前が守る家族を
オレが里ごと守る!!
そんな未来のためだったら
オレは何だってするし
後悔なんて
一切しないんだってばよ!」

ずっと思っていた本音だった。
本当に
本当に幸せを
願ってるんだ。

「サスケの気持ちは
分かってるつもりだってばよ」
「全然分かってないよ
ナルトは」
「そんなことねぇよ。
オレはお前が……
一番大事」
「嘘だ…」
「嘘じゃねぇってばよ」
「考え直せよ…っ」
「……もう決めたんだ」
「オレのことだけ…考えて!」
「全部繋がってるんだ。
オレはサスケのこと
ちゃんとさ
考えて考えて
悩んで心配して
それで出した答えなんだ」

お前が好きだ
サスケ

だからオレはお前の幸せを
誰よりも願う。
あいつの分も
お前は絶対
幸せになんなきゃダメなんだ。

「何を言っても変わらないの?」
「変わんねぇよ」

強い意思を込めて
オレを見つめてくるサスケを
見返した。

短いようで
長い沈黙。

その時
空気が変わった。

サスケの表情が
一切
無くなったんだ。

まるで
“サスケ“が目の前に
いるみたいに
思えた。

「分かった
ナルトの言う通りにする」

なら
早く封印を解いて


冷たい声が
ようやく
オレの望んでいた言葉を口にした。












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