脱友☆の条件



「寝るなー、サスケー。起きろってばよ~。サースケェ~」
かなりいける口のナルトがここまで酔っ払うのは珍しい。
それになぜか今日のサスケは最初こそ不機嫌な態度を崩さなかったけれど、どんなにナルトがからんでも、殴って黙らせるような手荒な真似はせず、ナルトの前で同じように飲んでいた。
サスケも自分と同じように飲みたい気分なのだと気づいたのは、彼の焦点がぐらつきだした頃だった。
「……すぅ……すぅ……ん……ぅ……」
意識が朦朧としているサスケから寝息が聞こえてきてナルトは慌てて起こしにかかる。
「もう、サスケってばサスケってばサスケってばサスケェー。オレってば一人で飲んでも楽しくねぇの!起きて!」
「う……っせ……」
胡座を組んだままぐらぐらするサスケにナルトは必死に声をかける。
つかんだ肩を揺すると力の抜け切っていたサスケの首が面白いほど後ろに伸びた。
「ぐぇ……」
サスケの変な声にナルトはひとしきり笑う。
こんなやりとりが日付が変わったあたりから続けられていた。しかし朝まではまだ遠く、ナルトにはまだ眠る気はない。酔っ払い二人が作る異様な雰囲気の中、寸劇のような妙な白々しさを残したままそれは続く。
「いーーーかげんにしろ、ナルト」
うっすらと目を開いたサスケだったが焦点はあっていない。重たげに持ち上げられたまぶたは今にも落ちそうだ。
「サスケー、置いてくなよー。夜はこれから!ちゃんと目ぇあけろってばー」
「…………」
口を開けることさえわずらわしいサスケは、さんざんのナルトの呼びかけにも反応を示さない。
「起きろってばー!」
焦れたナルトがガシっとサスケの揺れる頭をつかんだ。
別段サスケを起こして具体的に何かをしたい、というような願望はナルトにはない。しいて言うなら酒を飲むだが、すでにアルコールを含んだ飲み物はこの家にはなかった。酔っ払いに条理を求めても無駄である。
「サスケー」
じりじりとサスケににじり寄り、ナルトは医者がするように親指と人差し指でサスケのまぶたをこじあけた。黒い瞳があらわれる。
「これに模様が入いんだよなー」
ナルトは身を乗り出すようにしてサスケの眼を覗き込んだ。
今まで無反応を決めていたサスケだったが、さすがに嫌だったらしくパシリとナルトの手をはたく。
普段であれば静電気をバチバチさせているだろうサスケに対するナルトの横暴ぶりだが、やはりこちらも相当酒が入っているようだ、仕返しにいつもの破棄がない。
「何すんだってばよ!」
それに不満の声をあげたのはナルトの方だった。
ゆるいサスケの抵抗にもナルトは気に食わない。何すんだはサスケの台詞だが、酔っ払いに……(以下略)
しかし大変憤慨したナルトはめげずにサスケの顔に手をのばす。
「サスケー。おまえ、おまえすげぇムカつく面してるってばよー。前から思ってたけどさー」
吹き出物ひとつないサスケの頬をつねりながらナルトがくだを巻く。
「何で女の子はこの顔が好きかなー」
ペチペチと今度は撫でるようにたたいた。
たいていの女の子はサスケのこの人形じみた綺麗な顔が好きなんだろう。だって中身はすこぶる意地が悪い。
「この顔のどこがムカつくってんだ、このウスラトンカチが」
抵抗するのさえ億劫になったのか、好きにさせたままサスケはナルトに言い返す。
「うーーーん」
ナルトは最後にぺちりと一つたたいて、そのままサスケの頬に手を添えた。
「そーだってばねー」
うんうんうなるナルトにも、好きにさせているサスケにも今の状態が端からどう見えているかなんぞまったく意識にのぼっていない。
うーんと首をひねった瞬間、
「このままキスできそうだってばよー」
普段のナルトなら絶対言わないような(というかこんなことをしない)ことを口が勝手にしゃべりだしていた。
言われたサスケもそれに疑問を持つこともなくさらりと聞き返す。
「キスするのかよ」
「しねーーってば。あたり前じゃん。オレら男同士なんだから」
このおかしな流れにも二人はまったく気づかない。
「それもそーか…………でも前にしなかったか?」
「したけど、アレは事故!キスじゃねー」
「そんなもんか」
納得したようなしてないような神妙な顔付きでサスケがうなずく。
「おい、いつまでオレの顔に触ってるつもりだ」
「え?あーホントだってば。つい気持ちよくって」
へへへとナルトは手を下ろした。
「気持ち良さそうってのはてめーのんだろ。傷跡ひとつねーんだから」
「そーかな?自分じゃ分からねぇってばよ」
ナルトはゴシゴシと自分の頬をこする。
「サスケのが気持ちいー」
「気持ち悪ぃことゆーんじゃねぇ」
「本当だってば。じゃあオレのも触ってみろよ」
ほら、とナルトが右頬をサスケに向ける。
もちろん疑問に思うことなくサスケは手を伸ばした。
ひとしきりなでなでと手を滑らせたあとサスケはふぅと深く息を吐いた。
「分からねぇ」
「?」
サスケはあいた手をもう片方の頬にそわせた。両手でナルトの頬を包む。
また一種異様な雰囲気が二人の間に流れた。
ぽかぽかと顔が温かいナルトはとろんとした目つきで、目の前にあるサスケの顔を上機嫌で眺める。
「なんかオレってばキス待ってるみてぇ」
やはり普段のナルトなら絶対言わないようなことを口が勝手にしゃべりだした。
言われたサスケもそれに疑問を持つこともなくやはりさらりと聞き返す。
「待ってんのか」
「だから別に待ってねーってばよ。サスケとキスするなんてどう考えてもおかしーだろ?」
「オレのどこがおかしーんだ」
憤慨したようにサスケの目がすわる。問題が置き換えられたことに本人も相手も気づかず会話は進む。
「どこがってどこだろ?」
「オレに聞くな」
「うん」
ナルトは素直にうなずいた。
しかしすぐに狼狽したようにオロオロと目をさ迷わせ始める。
「あ、でもどーしよう、どーしようサスケ。オレってばサスケとキスした」
やっぱりおかしーことだったんだ……とナルトがうわ言のようにつぶやいた。
「だからそれは事故だってさっきてめーが言っただろ」
「ちがうちがう。それじゃなくて」
「?」
「オレってばさっきサスケにキスしちゃったんだ」
ナルトが俯いて恥ずかしそうにそう言った。
「いつ?」
「うーんと、さっき?」
「だからオレに聞くな」
「ごめん、サスケー。なんかそん時はおかしいって思わなかったんだってばよー。だっておまえ寝てたし、起きねぇし」
ナルトは申し分けなさそうにサスケに謝る。
「てめー、人の寝込み襲いやがったのか」
サスケの声のトーンが一気に落ちた。
「そ、そんなたいそうなもんじゃねぇってば!ホントちょこっとくっついたくらいで!」
ナルトは慌てて言い訳するが、どんどんサスケの機嫌は悪くなる。
「でもキスしたんだろ」
「し、してない!」
「さっきくっついたって」
「だからほんのちょっとだけだって」
「したってことだろ、それ」
「してねーってば!」
「じゃあ、どんなのやったか今やってみろよ、ナルト」
サスケにそう言われてナルトの心臓は大きく一つとびはねた。
「えー。やだってばよ。何でオレがサスケにキスしねぇとなんねぇんだよ!」
「オレはさっきどんな風にしたのかもう一回やってみろっつっただけだ。やっぱりキスしたんじゃねぇかよ、おまえ」
「キスじゃねぇの!」
ナルトはやけになったように違うと繰り返す。しかしナルトは自分のやったアレが本当にキスだったのかそうでなかったのか正直あやふやだった。
「じゃあ、できるだろ」
すかさずサスケが言う。
「あーもー、面倒くせぇなぁ!じゃあ目つぶれってばよ!」
引こうとしないサスケにナルトはあきらめたように降参の声をあげた。
「嫌だ」
「何で!」
行為を強いたのはサスケのクセにナルトの要求を彼は即答で拒否る。
「目開けとかねぇと何されるか分からねぇだろ」
サスケはさらりと言ってみせた。
「だからキスするんだろ、キス!」
ナルトはイライラと声を荒げる。キスだったのかどうかを決める行為が、キスをするにおきかわってしまっていた。頭に血と酒が上っているナルトは先ほどから思うようにならない苛立ちで、そんなことにまで頭が回らない。
「じゃあ早くしろよ」
そううながし目をつぶったサスケにナルトはえいとばかりに唇を近づけた。
かすったかどうかのところでナルトは慌てて顔を離す。
サスケからの反応はない。
「まだかよ、ウスラトンカチ」
目をつぶったままサスケが言う。心の中で終わったんですけど?と思いながらも、そう言われてナルトは面白くない。ナルトとしては精一杯再現したつもりだった。
「こ、これからだってばよ」
負けず嫌いな性分は酒が入ろうが、ショックなことがあろうがちょっとやそっとじゃ変わらないらしい。
「早くしてくれ。眠い」
「ちょ、寝るなよサスケ!」
「…………」
どうしても先に眠らせたくないナルトは寝るな!の意味も含めてサスケの唇に自分のそれを押し付けた。思ったよりあたたかい感触にナルトは満足して唇を離す。
「これでいーってばよ?」
ナルトはどこか誇らしげにサスケにお伺いをたてた。これで文句はないだろうと暗に込める。もはや酔っ払いの2人は軌道修正できないくらいに進む道が反れてしまっていた。
そんな意気揚々なナルトの耳にサスケのため息が聞こえてくる。
「おまえ、22歳にもなってこれはお粗末すぎるだろ」
「!」
不意打ちのようなダメ出しに、ナルトはムっとして下唇を突き出した。
「これくらいなら犬でもできる」
そう高飛車に言ったサスケにナルトは悔しそうに唇を引きつらせると、再度挑むようにして顔を近づけた。
今度はしっかりサスケの唇をついばむように触れ合わせる。少し唾液をまじらせるとしっとりとサスケの唇はナルトの唇に合わさった。
同性とするキスがここまで抵抗のないものなのだと、ナルトは不思議な気持ちで何度も何度もサスケの唇を吸った。心なしか胸奥から妙な疼きのようなものまでこみ上げてきて、身を乗り出してキスをしていた。
ちょうど唇を離しかけたところで、サスケが角度を変えてくる。さらに深く唇があわさってナルトはもう遠慮というか、すべてが色々吹っ飛んでしまった。ついでに変な声まででそうになった。
「……サスケ」
キスの合間にナルトはサスケの名を無意識に呼んでいた。ねだったわけではなかったけれど、それが合図だったようにサスケの舌がナルトの中に入ってきた。それでもナルトは嫌だとは思わなかった。
決して激しいものではなかったけれど、深くのど奥まで侵入しようとするサスケにナルトは欲情していた。もぞりと下半身がうずいて仕方がなかった。
おもむろにサスケの唇が離れていき、物足りなさを感じる。距離があいて焦点のあっていなかったサスケの顔がはっきり見えた。濡れた唇が色っぽくて、ナルトの興奮はおさまらない。それはサスケも同じだったようで、
「すげぇ、ムラムラする」
そう早口で言ってまたナルトに口付けてきた。「オレも」と返そうとしたナルトの唇はふさがれ、いきなり下半身をまさぐられた。これにもナルトは嫌だとは思わなかった。反対にどうにかして触りたいと思っていたところだったから、抵抗もあまりなくナルトはサスケの好きにさせた。
うわ言のようにナルトの口はサスケの名を呼んだ。本当は声をあげたかったけれど、ほんの少しだけ残っていたらしい理性がそれを押しとどめる。そうこうしている間にナルトのズボンは脱がされ下着も取り払われていた。尻が直に床についてナルトは冷たさに少し冷静になる。
「サスケ、ケツ冷てぇんだけど」
サスケは無言で立ち上がるとぐいとナルトの腕をつかんで立ち上がらせる。すぐ近くにあったベッドに転がされた。すぐにサスケがのしかかってきて、またキス
をされた。ナルトの屹立した猛りに戸惑うことなく手を伸ばしてくる。つかまれてナルトは首をすくめた。少し擦られて馴染みの感覚にぶるりと体がふるえる。
興奮のため亀頭の先に透明な滴が作られていた。大量の酒で立ってはいないかもと思っていたナルトだったが、しっかりサスケの愛撫に答えているらしい自分の体に安堵した。やられていたのは体ではなく頭のようだった。
冷静なようでいて、しかし肝心の状況判断が著しく低下している。今のナルトにはなぜこうなってしまったのかが分からない。ただサスケが自分に触れてくる手が開放に導いてくれることを期待して呼吸は早々に乱れていた。
のだけれど、
「……んーーーー……」
サスケの手は相変わらずナルトのそれを上下にしごく。先走りでぬめっていたそれは時間とともに乾きはじめていた。
サスケの唇を頬に耳にと受けながら、ナルトは困っていた。
(ひりひりしてきたってばよー)
ナルトはサスケに触られる感覚に己の快感を合わせられずにいた。見慣れて扱いなれている余裕からかサスケの手の動きには遠慮がない。確かににぎる強さも早さも申し分ないのだが、自分でする時と違って微妙にポイントがずれているのだ。やはり同性とはいえ他人の手。そこだと思った次の瞬間には違うところを触られて、ナルトはもうどうしたらいいのか分からなくなっていた。だからといってあから様にあんあん声をあげることもできない。てかしたくない。
(そこじゃないんだってばよー)
ナルトはもぞもぞと体を動かす。少しでも自分でやっている感覚をつかもうとしてなのだが、サスケはそれも快感のためだと思っているらしく、いっそうナルトに触れる手にも熱がこもるのだ。熱に浮かされたように「ナルト……」とやけに色っぽい低い声で名を呼ばれると、そこじゃないんだ!とははっきり言えないナルトだった。同じ男なだけあって、その辺りは男心というものの繊細さは分かっているつもりである。
だかといって、ここでやめようとも言えなかった。痛みを感じ始めていてもしっかり屹立してしまっているそこは開放しなければ、正直きつい。早く出してしまいたい。しまいたいのだけれど、
(もー、マジで痛ぇんだけど!)
サスケの手の動きに合わせて上下する皮が敏感なカリと亀頭を何度もこする。ぴりぴりと痛みは酷くなった。それでもナルトは集中しようとするが、やはりうまくいかない。
元々我慢は苦手なナルトが痛みをともなう行為をそうそう傍受できるわけがなく、もうこれは恥をしのんでサスケが良いところを触ったときにでも声をあげるか、体をひくつかせるかして教えてやらなければならないか、と悲壮な覚悟をしかけたとき、
「もしかしておまえ気持ち良くねぇの?」
「!」
そうサスケが上から覗き込むようにして言った。
ここでナルトに上手い言葉など出てこない。少しの逡巡のあとナルトは小さく頷いてみせた。
「先っぽがひりひりするんだってばよ。おまえこすり過ぎ」
伺うようにナルトはサスケを見上げる。そこに危惧したような表情はなくて、無表情ではあるのだけれど酒で赤味の増したサスケの顔は大層色っぽかった。
それが近づいてきたと思った時には頬にキスをされていて、
「……悪ぃ。がっつき過ぎた」
と、大変珍しいサスケの謝罪が聞こた。瞬間、今まで感じたことのない愛おしさがサスケに向かってゆくのがナルトはわかった。
しかしそれを実感している間もなくサスケの頭が下がってゆく。
「?」
撫で回していた胸元も過ぎ、めくられて露になっていた臍も通り過ぎてサスケの息を下腹部に感じた瞬間、今までひりひりと痛みを発していたそこがぬるんだ温かいものに包まれた。
ナルトの思考が一瞬止まる。
「ーーーー!!!!」
そのコンマ3秒後ナルトの雄叫びがベッドの上であがったのだった。












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