「ナルト・・・」
サスケはナルトの好きな直接腰に響くような声で名前を呼んだ。
眠る前にこの黒髪の男は必ずこうやって、ナルトを誘う。
恒例にもなりつつあるこの勝負は今のところ若干ナルトの分が悪い。
これもそれも全部、男の自分でさえドキリとするような甘くかすれた声だったり、胸元を這いまわるひやりとした指先だったり、わざといやらしく絡めてくる足だったりと、ナルトのサスケに対する敗因要素は尽きる事がない。
しかし、今夜は断固として拒絶しなければならないのだ。
いくらサスケがくすぐるように首に吸い付いてこようが、優しく髪をすこうが、ナルトの好きな黒い瞳を髪の隙間から覗かせようが!
ああ、でもそれに打ち勝つにはかなりの気概がいるわけで。
だったら、目をつぶってしまえばいいのだと思ったのも最初だけ。次にはその魅惑的な声で揺さぶりかけるものだから本当にこの男はタチが悪い。
「・・・今日はヤダ」
だから、もうすでに流されかけていると一発で分かるような声の弱さで答えてしまう。
「いつもヤダって言うわりには、最後は自分から欲し・・・」
「それ以上言うんじゃねぇっ」
ナルトはサスケが全てを言う前に手の平で己の恥態を吐露しようとした男の口を塞いでやった。次に何が続くのか分かっているからこその阻止であったのだが、分かってしまう時点でサスケの嫌がらせは功を成しているといえるのだろう。
ああ、分っているとも。本気で嫌がるわけがない。
交わる際のサスケの優しさと酷さをナルトは嫌という程知っている。
悔しがるナルトを余所に、サスケは手の平をねっとりと舐めあげた。わざと多分に唾液を含ませて。
「うわっ」
気持ち悪いのか、卑猥に感じるのか、どっちつかずの感触にとっさに手を引っ込めた。
そのスキに少し体を起こしていたサスケに軽く口付けられる。ついばむ様なキスが何度もナルトの唇を掠めて可愛らしく音をたてるものだから、うっかり口を開いてしまいそうになったところで、ハッと我に返った。
「今日はヤダっつってるだろっ」
「何でヤなんだよ」
ナルトの反応に勝利を確信していたサスケは、思いもよらない恋人の拒絶に眉をひそめた。
「・・・ベロが痛ぇから嫌なんだ」
「はぁ?」
思いっきり馬鹿にしたような顔で見下ろすサスケに、諸悪の根源が何を驚くことがある!と内心で毒づく。
「ベロの根っこのとこ。筋みたいのが切れてんの。痛ぇから今日はしねぇ」
思い出したら疼き出した舌の根の痛みにナルトは新たに決意を硬くする。
「何でんなとこが切れんだよ」
「・・・てめーがひっぱるからだろーが。オレのベロは短けぇんだっ」
「ひっぱ・・・って。ああ、キスの時か」
「それ以外あるかってばよ」
不機嫌を隠しもせずにナルトは唇をとがらせふいと顔をそむける。その仕種がどれだけ上に覆いかぶさる男をその気にさせるか知りもしないで。
「奥まで欲しいんだよ。仕方ねぇだろ」
サスケは瞳を細め、ふっと唇の端を吊り上げる。とても善人なそれとは思えない類いのその笑みは、至近距離ではあまりお目にかかるものではないと常々思っている程ナルトにとっては弱いモノだった。
「うわーうわー!何かヤラシぃってばよ、サスケ」
ヒっと喉を鳴らして身の危険を感じたナルトは拒絶しなければと思ったところで、サスケが熱にうかされたようにささやいた。
「てめーに限りだ。で、ようするに、てめーはキスをしないセックスはしたくねぇってことなんだな?」
「・・・そーゆーワケじゃ・・・」
断定口調でもって問いかけるサスケに弱々しくもナルトは反論を口にした。
勝利の行方があやしくなってきて、これはやばいっとナルトは思う。普段無口なくせにこうゆう時だけ饒舌になるサスケが恨めしい。
「だったら、今日はオレの舌口に入れとけ」
「サっ・・・!」
ぼん、と血が瞬間沸騰しそうな台詞を臆面もなく、しかし魅力的な低音でもって口にしたサスケはナルトの前髪をすくようにかきあげる。
本格的に覆いかぶさってきた男に今日も完敗してしまったナルトは、クソーと思いつつ力を抜いた。
所詮、本気になったサスケに色ごとでの勝負は、最初からナルトの分が悪いのだ。
情熱的に与えられる口付けを心地よく、しかし悔しく思いながら、ナルトはサスケの首に腕を回す。
そろそろナルトが敵前逃亡する日も近い。
Fin.
自分設定で絶対ナルトの舌は短いと思っています。
それでたまに興奮して歯止めの気かなくなってるサスケさんに容赦なく吸われてしまって、今日は痛いんだってばよ!とか言ってたらいいと思います。
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