『冷たい指先』
冷蔵庫が閉まる音ともに中に入っているガラス容器がガチャンと小さな音を立てた。それを背中に聞いてナルトは台所をあとにする。
明かりはつけずとも知れた家内を二人の寝室と決めた部屋へと戻った。
暦上は春とはいえ3月を少し過ぎたくらいの季節。朝方は気温も下がり、欲求を満たした体は早々に暖を求めるようだ。
5段目でいつものようにギシリと軋む階段を軽快にのぼりきり、開いたままの部屋へと身を滑らせた。
豆電球のほのかな明かりが眠る恋人の頬を照らす。
熟睡しているのだろう、布団の端はナルトが抜け出ていった形状のままめくれあがり、彼の肩は夜の冷気にさらされている。
ナルトはそれを特に気にする風でもなく、まだ十分暖かい布団の中に入った。少しの寒さを感じたとき背中に温みが欲しくなるようで、ナルトはサスケに背を向けるようにして足を軽く引き寄せ丸くなる。背中の曲線にそってサスケの体温を感じた。
こんなちょっとした触れ合いがナルトはとても好きだ。
もちろんサスケとキスをするのもとても好きだし、セックスするのも最近じゃナルトから求めることだってある。組み敷かれる気恥ずかしさと情けなさも、熱が上がり互いに求めあえば、もうどっちだってかまわなくなるのはいつものことだった。
サスケはいつもナルトをとても丁寧に抱く。他に抱かれたことなんてないから分からないけれど、自分が女を抱いたことがあるからそう思うのかもしれないし、男同士ということでそこに至るまでの過程をすっ飛ばせばお互いつらい思いをするからかもしれないけれど。
それでもたまに抵抗したくなるような性急に求められる時もあった。
例えば今日のように何週間も互いの時間を持てなかった時などは特に。
(久しぶりに喉がかれたってばよ。サスケのやつ好き勝手しやがって)
そう毒づきながらも、満足いくまで出された若い体は内心とは裏腹に満たされている。それもいつものこと。
ナルトは横になった途端沈み込むように力の抜けた体を無意識にサスケに持たれさせた。じんわり広がるサスケの体温が心地良い。
その時、後ろから回ってきたサスケの腕がナルトの腰を過ぎてぐいと引き寄せてくる。続いて枕と首の間に腕がさしこまれた。
ぞくに言う腕枕というやつだ。
(あーーー……)
サスケのこれは無意識らしい。起きてるんじゃないのかと思うけれど、彼の息づかいはどこまでも規則正しく、そして安らかなのだ。
(でもなぁ……)
ナルトはごそごそと動いてベストポジションを探す。しかししっくりくる場所がないのはわかっていた。
ナルトは実は腕枕があまり好きではない。だって硬い。サスケが特に骨ばっているとか異常に筋肉質だとかそういうわけではなく、頭を柔らかく包むだけに作られている枕とくらぶべくもないだけで。
(すげぇ嫌ってわけじゃねぇんだけど)
やっぱり枕のほうが柔らかくて気持ちがいいと思う。特に腕枕をされたあとの枕の感触は思わず頬ずりしたくなるほどだ。
もちろん毎日サスケもしてくるわけじゃない。でもされた日はとことんまでにサスケの腕はナルトに巻きついてくる。堅苦しくなったころこっそり外したりするのだけど、気がつけばまた同じことになっていた。
今日もその日らしい。
枕があるから全ての重みがサスケの腕にかかるわけじゃないけれど、腕がしびれても知るものかとナルトはあきらめの極致でサスケに身をゆだねた。
目線の先に軽く曲げられたサスケの指が見える。
こうやって見るサスケの指はなぜこうも愛しく感じるのだろう。
がらにもなく指を絡めてしまいたい衝動にかられた。ここから見えるその指がとても寂しそうに見えるから。
「おやすみ、サスケ」
ナルトはゆっくり目を閉じる。指先にほのかな熱を感じながら。
Fin.
『十年恋歌』収録『恋愛幸福論』の後あたり。日常風景ってやつです。
特に、山なしオチなしですが、手ふぇちなのでこんなの書いてみました。
ピヨンさんに描いて頂いた腕枕の挿絵があまりにツボだったので、書き足りず今ごろです。
あ、よかったらピヨンさん持って帰って下さいー。いつも頂いてばっかりなので^^
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